呻吟うな)” の例文
「何しろどこだ知らん。薄気味悪さに、かしらもたげて、じっと聞くと……やっぱり、ウーと呻吟うなる、それが枕許のその本箱の中らしい。」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土屋君、君は左様さう笑ふけれど、確かに僕の名を呼んだに相違ないよ。風が呻吟うなつたでも無ければ、鳥が啼いたでも無い。そんな声を
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
改良半紙へけいを引いた下敷を入れて、いなぶねと署名したまま題も置かず、一行も書けない白紙へむかって、錦子は呻吟うなっている日がつづいた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
眼の縁が薄黒くなり、石地蔵のような皮膚の色をして、小鼻をピクピク動かしながら、呼吸をしていました。喰いしばった歯の間から洩れる呻吟うなり声が四辺を凄惨なものにしていました。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
丑松はだ寝床を離れなかつた。下女が枕頭まくらもとへ来て喚起よびおこした時は、客の有るといふことを半分夢中で聞いて、苦しさうに呻吟うなつたり、手を延ばしたりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
伊豆通ひの滊船ふねが、滊笛きてきを低く呻吟うならせて通り過ぎると、その餘波にゆられて、ゆらゆらしながら
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
と山伏は呻吟うなった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と敬之進は嘆息して、獣の呻吟うなるやうな声を出し乍ら歩く。丑松も憐んで、軈て斯う尋ねて見た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)