吐鳴どな)” の例文
或る時には犬のその声を聞いて、例の隣の大尽の家からは「ほんとうになんといふうるさい犬だらう」と、大きな声で子供が吐鳴どなるやうなこともあつた。
岡村が吐鳴どなる。答える声もないが、台所の土間に下駄の音がする。火鉢のそばな障子があく。おしろい真白な婦人が、二皿の粽を及び腰に手を延べて茶ぶ台の上に出した。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
私は私で「エノシマ」と吐鳴どなりながら、今や行くことの出来ぬ島を指さした。私は吐鳴ったが、これは自分の言葉が通じないと、無意識に彼等をつんぼだと思うからである。
サタンの美学、名妓論の一端とでも言うのか。めちゃ苦茶のこと吐鳴どなり散らして、眠りこけた。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こんなことを考へて居りますと一羽の鳥が『トムさんの馬鹿。』と吐鳴どなつて、トムさんのつい鼻先へ石ころを、落したので吃驚びつくりして、思ひ出したやうに、またひと鍬土を耕しました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
と何か別の事でも非常に激昂げきかうして居るらしい心を、彼の犬の方へうつして、ヒステリカルな声で散々に吐鳴どなり立てた。その声が自分の家のなかで坐つて居る彼の耳にまで聞えて来た。
さうして若しそんな事でも言ひ出せばきつと吐鳴どなりつけるにきまつて居る、それでなくてさへも、もう全然駄目なものと見放されて居る——わけて自分との早婚すぎる無理な結婚の以後は