厳乎げんこ)” の例文
蒼溟の大波が捲き起ってまさに崩れようとする形であるが、一波の尖りにも厳乎げんこたる特性があって力強く存在を宣している。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼のふくらした小鼻、伏せた目は、そのギリシャ式の厳乎げんこたる横顔に、古人が正義の姿にふさわしいものとした憤怒の表情と清廉の表情とを与えていた。
穏かに眠れる妻の顔、それを幾度かうかがって自己の良心のいかに麻痺まひせるかを自ら責めた。そしてあくる朝贈った手紙は、厳乎げんこたる師としての態度であった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
が、この感服は私にとつて厳乎げんことして厳たる事実である。だから私は以上述べた私の経験をひつさげて、広く我東京日々新聞の読者諸君に龍村さんの芸術へ注目されん事を希望したい。
竜村平蔵氏の芸術 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その横顔は線に丸みがあるとともにまた厳乎げんこたるところがあって、アルザスおよびローレーヌを通じてフランス人の容貌ようぼうのうちにはいってきたゼルマン式の優しみがあり
手に銃を持って防堤の上に立っていたアンジョーラは、その厳乎げんこたる美しい顔を上げた。読者の知るとおりアンジョーラにはスパルタ人の面影と清教徒の面影とがあった。
彼は身をかがめ石のようになって、その厳乎げんこたる数行の文字にじっと目を据えた。そして内心のすべてが崩壊してるかと思われるような暗雲が、彼のうちに起こってきた。