創傷きず)” の例文
むかしの幸福。今の苦痛……苦痛は兎角免れ得ぬにしろ、懐旧の念には責められたくない。昔を憶出おもいだせば自然と今の我身に引比べられて遣瀬無やるせないのは創傷きずよりも余程よッぽどいかぬ!
当時は死ぬか生きるかの大きな創傷きずを総身に受けたに相違なかつたが、いつ治つたともなく治つて、今ではその痕跡あとをすら見出すことが出来なくなつた。否、そればかりではなかつた。
船路 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「僕等の発見は遂に尽きている筈だぜ。そして、流血の形態かたち一つだけでも、兇器の推定が困難な位だ。だがそれより、創傷きずの成因が君の説の通りだとすれば、当然この屍体に、驚愕恐怖苦痛等の表出がなけりゃならんがね」
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)