几帳面きちやうめん)” の例文
鐘のやうに堅牢な體質——病氣も決して彼女に近づかない。几帳面きちやうめん拔目ぬけめない管理者で、家族も小作人も完全に制御されてゐた。
「へエ、何んにも盜られた樣子はございません。主人は金のことはまことに几帳面きちやうめんな方で、私の知らない出入りは無い筈で御座いますから」
それは彼女が几帳面きちやうめんな彼に何かケウトイ心もちを感じた為にも違ひなかつた。しかし又一つには今の檀那だんなに彼女の息子むすこが尋ねて来たことを隠したかつた為にも違ひなかつた。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
富岡も、音楽が好きとみえて、仕事机で、んやりピアノに耳をかたむけてゐる。マリーは二十四五歳にはなつてゐるらしかつたが、眼鏡のせゐかけてみえた。几帳面きちやうめんな家庭の娘だといふ話である。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
『校長先生は随分几帳面きちやうめんな方だが、なんぼなんでも新平民とは思はれないし、と言つて、教員仲間に其様なものは見当りさうも無い。左様さなあ——いやに気取つてるのは勝野君だ——まあ、其様な嫌疑のかゝるのは勝野君位のものだ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこでは若いお孃さんたちが足枷あしかせをはめ、背中に板をつけさせられ非常に上品じやうひん几帳面きちやうめんでなければならないところだと、ベシーが時々話したものである。
八五郎はいつになく几帳面きちやうめんに格子戸を開けて入つて來ました。神田明神下の、錢形平次住居の段、——もつとも、几帳面に引かないと、この格子はつがひごと敷居から外れます。
典型的な忠義者、——と言つた感じの、几帳面きちやうめんに、忍從で少し片意地で、そのくせ愛嬌のある——こんなのが飛んだ喰はせ者かも知れないと思つたほど『番頭タイプ』の人間です。
「ロチスターさんは、几帳面きちやうめんな氣むづかしい方でゐらつしやいますの?」
その下一寸二三分離して描いた二の字は几帳面きちやうめんな字角で、左の方だけ揃つて居るのも不思議ですが、上の棒が二分位、下の棒が三分位、一番下の二重丸は二の字に直ぐ續いて
四角几帳面きちやうめんな話、聽いて居るだけでも肩の凝りさうなのを、ガラツ八はたまり兼ねて次の間へ避難しました。——平次殿の大名——から——良き智慧を拜借——が可笑しかつたのです。
「あつしは何んにも知りませんよ、若樣とは大の仲好しでしたがね、これは何處の子供衆も四角几帳面きちやうめんなことを嫌ひだからで、何んの不思議もありません。え、若樣は、滅多な人とは口もきゝません」
傷痕きずあと几帳面きちやうめんな丸味があるぜ