むじつ)” の例文
しかも彼女はそのむじつを訴えることさえできず、黙って住民たちに嘲笑され、悪童どもの投げつける石に耐えなければならないのである。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして遂にむじつとして放免せられた事件があったが、この時の拷問に耐えた金平の態度は、実に壮絶を極めたものらしい。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの、わたくしどもが甲府へ参りまするのは、むじつの罪で牢屋につながれている人を助けに参るのでございます」
誰一人執成とりなしてくれようと云うものはなし、しかたがないので、そっとね、姉様がむじつの罪をせられて——昨夕ゆうべ話したッけ——冤というのは何にも知らない罪を塗りつけられたの。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は明らかに、お糸のむじつを、たった一本の真田紐さなだひもで証明しようとしているのです。
「果してむじつの罪であるものならば、わしの力を借りるまでもなく罪はゆるされる。もし、まことに罪があるものならば、わしが力添えをしたとてどうにもなるものではない」
平次は明かに、お糸のむじつを、たつた一本の眞田紐さなだひもで證明しようとして居るのです。
たしかにむじつの罪なのでございまする、その方は決して盗みなどをなさる方ではないのでございまする、公儀様の御金蔵を破るなどという、だいそれたことをなさるお方でないことは
繼母のお嘉代はひたむきに伜の文次郎のむじつを訴へるのです。
宇津木、君だからとて、そうそう正直にむじつの晴れるのを待ってもいられまい。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)