俘囚ふしゅう)” の例文
もちろん彼はそれからバッカスの俘囚ふしゅうとなって、前後を忘却するほどの泥酔に陥った、が翌朝早く彼は自分の寝台にぱっと目を覚ました。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
がなすきがな、那須、宮城みやぎなどの、東北の俘囚ふしゅうや、四隣の豪族が、一尺の土地でも、蚕食しようと、窺いあっているのだぞ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尚寧王は俘囚ふしゅうとなって薩摩にある事二年余、漸く許されて父母の国に帰ったが、さながら島津氏の殖民地に身を寄する一旅客のようであったと申します。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
どうしても何かの精霊どもの話し声にちがいない。最近に王の前で処刑しょけいされたバビロンからの俘囚ふしゅう共の死霊の声だろうという者もあったが、それが本当でないことは誰にもわかる。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼女にとつてそれが恋の死ぬばかりの快よさの全部であつた。定はこの様な花子の前に俘囚ふしゅうのやうに盲従しなければならない自分の位置を間もなく知つた。夏になり、やがて暦のうへでの夏がおわつた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
前とは似ても似つかぬしわがれた声が、ほんの申し訳に、喉の奥から出るというに過ぎなかった。なにをされても、俘囚ふしゅうの身には反抗すべき手段がなかった。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
官田かんでんもたくさんあることですし、かたがた、陸奥にはまだ、中央の令に服さぬ俘囚ふしゅうの族も、強力な軍備と富力をもって、虎視たんたんと、御政治のみだれをうかがっております。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ホーテンスが、あの怪しい海底の城塞みたいなものの中へ俘囚ふしゅうとして連込まれるのを見るに忍びなかったけれど、もし今起出せば、水戸自身もやっぱり俘囚の仲間入りをするに決っていた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)