五音ごいん)” の例文
「——わかたなは、あんやたい——」若旦那は、ありがたいか、暖かな、あの屋台か、五音ごいんが乱れ、もう、よいよい染みて呂律ろれつが廻らぬ。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見ていると、寂然としずまりかえっていた霊媒の上体がゆらゆらと揺れだし、どこから出るのかと思われるような、人間の五音ごいんをはずした妙な声で、うむうむと唸りだした。
雲の小径 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
空を見あげてホツと息をつくさま、堪へかねたる樣子は五音ごいんの調子にあらはれぬ。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
取つた女のやうであつたと言ひ、猪之松は、若い女に違ひないと言つてゐたやうに思ふ。いづれにしても、狐狸妖怪こりえうくわいだとすると、五音ごいんをはづれてゐるから、聲が若くも、年寄にも聽えやう
熊野神社くまのじんじゃのそばまで来ると、暗闇の中から、五音ごいんをはずした妙なふくみ声で
五音ごいんの外れた声、あまりの事に二人は顔を見合せるばかりです。
戯画ざれえに描く公卿面にそのままで、いっこうに威儀がなく、気魄薄げな人体であった。冠もつけず、円座のうえに足を組んで坐ると、五音ごいんをはずしたうつろな声で、いきなりこんなことをいった。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)