下暗したやみ)” の例文
遠くの安全燈の光は、五重の塔の表側の方にさえほとんど届かないのだから、その裏の下暗したやみには無論影さえもない。公園中での魔所といってもよかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
見ると幾塊かの大岩が黒ずんだ膚に青苔を蒸して眼前に立ちふさがっていた。木立までが深くなって、幽鬱な下暗したやみに物の朽ちた臭がそこら一面に漂うている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
實家は上野の新坂下しんざかした、駿河臺への路なれば茂れる森の木の下暗したやみ佗しけれど、今宵は月もさやかなり、廣小路へ出づれば晝も同樣、雇ひつけの車宿とて無き家なれば路ゆく車を窓から呼んで
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
可哀相な老婆は、わしの目を見ると、えたいの知れぬ叫び声を発して、矢庭やにわに逃げ出そうとした。人里離れた森の下暗したやみで、突然白装束の故人に出会ったのだ。幽霊と思うのも無理ではない。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)