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おんわかれ
返す返すも
悔き熱海の
御別の後の思、又いつぞや
田鶴見子爵の邸内にて図らぬ
御見致候而来の胸の内、
其後途中にて
御変り
被成候荒尾様に
御目に懸り、しみじみ
御物語致候事など
其節の
御腹立も、罪ある身には元より覚悟の前とは申しながら、
余とや
本意無き
御別に、いとど思は
愈り
候て、帰りて後は
頭痛み、
胸裂るやうにて、夜の目も合はず、明る日よりは一層心地
悪く
相成
惜き惜き此筆
止めかね候へども、いつの限無く手に致し居り候事も
叶ひ
難く、折から四時の
明近き油も尽き候て、手元暗く相成候ままはやはや
恋き御名を
認め候て、これまでの
御別と致しまゐらせ候。