頬白ほおじろ)” の例文
庭つづきになった後方うしろの丘陵は、一面の蜜柑畠みかんばたけで、その先の山地に茂った松林や、竹藪の中には、終日鶯と頬白ほおじろとがさえずっていた。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こと頬白ほおじろなどはさえずりまでもかえたらしく、何だか一年増しに歌の声が短くなって、一筆啓上仕候つかまつりそうろうなどとは、聴いてもらえそうもなくなった。
安宅にはうぐいす、めじろ、頬白ほおじろくらいしかわからなかったが、益村家の庭からでも、久太夫の飼っているそれらの小鳥の声がよく聞えたものだ。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
シコモルの茂みの中には頬白ほおじろが騒いでおり、すずめは勇ましい声を立て、啄木鳥きつつきはマロニエの幹をよじ上って、樹皮の穴を軽くつつき回っていた。
すずめがとびこんできました。頬白ほおじろがとびこんできました。つぐみがとびこんできました。山鳩やまばとがとびこんできました。からすがとびこんできました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
袋から、血だらけな頬白ほおじろを、(受取ってくれたまえ。)——そういって、今度は銃を横へ向けて撃鉄うちがねをガチンと掛けるんだ。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真冬の二月は頬白ほおじろ目白めじろも来てくれないので、朝はいつもかわらないすずめ挨拶あいさつと、夜は時おり二つ池へおりる、がんのさびしい声をきくばかりだった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
やぶの中の黄楊つげの木のまた頬白ほおじろの巣があって、幾つそこにしまの入った卵があるとか、合歓ねむの花の咲く川端のくぼんだ穴に、何寸ほどのなまずと鰻がいるとか
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
まだこのほかにも駒鳥こまどり鸚鵡おうむ目白頬白ほおじろなどを飼ったことがあり時によっていろいろな鳥を五羽も六羽も養っていたそれらの費用は大抵でなかったのである
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こと玄人くろうとになるとすずめ頬白ほおじろを撃つていたずらに猟の多いことを誇るやうなことはせぬやうになり、おのずからその間に道の存する所の見えるのも喜ぶべき一カ条である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
うららかに晴れ静まった青空には、洋紅色ローズマダーの幻覚をほのめかす白い雲がほのぼのとゆらめき渡って、遠く近くに呼びかわす雲雀ひばりの声や、頬白ほおじろの声さえもなごやかであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鶯という鳥はその前年の秋から渡って来ている——いわゆる渡り鳥であるところの——頬白ほおじろだとかひよどりだとか百舌鳥もずだとかいうような小鳥類とは全然感じを異にした鳥で
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
雑木林では、ほぐれかけた木の芽がほのかに烟り、梢からは頬白ほおじろの囀りが絶間なく聞えて来る。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
近在を駈け廻って帰ったデカやピンがあえぎ/\来ては、こがれた舌で大きな音をさせて其水を飲む。雀や四十雀しじゅうから頬白ほおじろが時々来ては、あたりをうかがって香炉の水にぽちゃ/\行水をやる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
近在を駈け廻って帰ったデカやピンが喘ぎ喘ぎ来ては、こがれた舌で大きな音をさせてその水を飲む。雀や四十雀しじゅうから頬白ほおじろが時々来ては、あたりを覗って香炉の水にぽちゃぽちゃ行水をやる。
地蔵尊 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それから百舌もず頬白ほおじろ、頬白がいる位だから、里の田のあぜ稲叢いなむらのあたりに、こまッちゃくれた雀共が、仔細ありげにピョンピョンと飛び跳ねながら、群れたかっていたとてさらに不思議はない。
百舌鳥もず、鶯、眼白めじろ頬白ほおじろ等を数ふるに過ぎぬ。
沼津千本松原 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
頬白ほおじろでございますわね」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たった頬白ほおじろが一羽。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
空の鳥だけがその秘密を知っていた。十八世紀の頬白ほおじろすずめなどは、法院長について種々ささやきかわしたことであろう。
が、何処どこの巣にいて覚えたろう、ひよ駒鳥こまどり、あの辺にはよくいる頬白ほおじろ、何でもさえずる……ほうほけきょ、ほけきょ、ほけきょ、あきらかにうぐいすの声を鳴いた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雀や頬白ほおじろは皆同じ顔をしていますが、梅や椿は一本々々に枝振りが変っているので、見覚えがあります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しっとりした朝の空気までが共鳴せずにはいられないように一斉にざわめく気配がする。爽かな風が河上から撫でるように吹いて来て、ものうねむりから草木を醒して行く。頬白ほおじろが鳴き出した。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
すぐ近くへ来て啼く頬白ほおじろやアオジまたは鶺鴒せきれいというような、一括して田舎ではスズメと呼ぶものを比べて見ても、語数の多いことにかけては里雀に及ぶものはない。
彼女の声は魂を持った頬白ほおじろのそれのようだった、そして夕方時々、負傷した老人の貧しい住居で、悲しい歌を歌った。それをまたジャン・ヴァルジャンは非常に喜んだ。
頬白ほおじろ山雀やまがら雲雀ひばりなどが、ばらばらになって唄っているから、綺麗きれいな着物を着た間屋のむすめだの、金満家かねもちの隠居だの、ひさごを腰へ提げたり、花の枝をかついだりして千鳥足で通るのがある。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たくみに巣を作るのでうぐいすの名があるといわれるが、頬白ほおじろに較べて大差はないようだ。確か柄長えながであったと思う、何でも鳥の羽で入口に蓋のある上手な巣を作るものがある。しかし卵は小豆色で奇麗だ。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
偶然にそれを子供が見出したのだが、雀ではどうもないようだ。頬白ほおじろはこういう穴住居はしないし、四十雀しじゅうからならよく来るが、どうも小さい頃見た四十雀の巣ともちがう。
少々たいらな盆地になった、その温泉場へ入りますと、火沙汰ひざたはまた格別、……ひどいもので、村はずれには、落葉、枯葉、焼灰に交って、獦子鳥あとり頬白ほおじろ山雀やまがらひわ小雀こがらなどと言う、あかだ、青だ
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春には、木の間に頬白ほおじろがさえずる。
電線はこの頃では燕はとまらず、ただ頬白ほおじろばかりが利用している。大きな松の木などもあるのに、わざわざ窓に近い針金の上にとまって、時々は一時間も囀りつづけていることがある。
……小雀こがら頬白ほおじろも手にとまる、仏づくった、祖母でなくては拾われぬ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余所よそのおじさんの鳥さしが来て、私ンとこの橋のつめで、榎の下で立留まって、六本めの枝のさきに可愛い頬白ほおじろが居たのを、さおでもってねらったから、あらあらッてそういったら、ッ、黙って、黙って。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)