韋駄天いだてん)” の例文
あとにつづいてあば敬とその一党も、逃がしてならじというように、三丁の駕籠をつらねながら、えいほうと韋駄天いだてんに追いかけました。
両手を振りながら韋駄天いだてんと、こなたへ馳けてくる人影が見える。その迅いことは、まるで疾風に一葉の木の葉が舞ってくるようだった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おやじの葬式そうしきの時に小日向こびなた養源寺ようげんじ座敷ざしきにかかってた懸物はこの顔によく似ている。坊主ぼうずに聞いてみたら韋駄天いだてんと云う怪物だそうだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身を躍らせて山を韋駄天いだてんばしりに駈け下りみちみち何百本もの材木をかっさらい川岸のかしもみ白楊はこやなぎの大木を根こそぎ抜き取り押し流し
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そうでございます、御承知の通り私共は韋駄天いだてんの生れかわりでございまして、下手へたに信心をするとかえって罰が当ります」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
帆村はもう必死で、このコンパスの長い韋駄天いだてん追駈おいかけた。そして横丁を曲ったところで追付いて、ついに組打ちが始まった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何かかこつけ、根は臆病でげただよ。見さっせえ、韋駄天いだてんのように木の下を駆出し、川べりの遠くへ行く仁右衛門親仁を
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六町韋駄天いだてん走りに逃げ延びて、フウフウ息を切らしながら再び振返ってみると、これはしたり、一行中の杉田子は、くだんの大女につかまって何か談判最中。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
声に応じて走り出た二人、お浦に飛びかかると引っ担ぎ、まだ散り残り入り乱れている、うちこわしの暴徒の群衆の中へ、さながら韋駄天いだてん走り込んだ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次は挨拶もそこそこ、真一文字にお勝手へ抜けて、数寄屋橋すきやばしの南町奉行所まで、韋駄天いだてん走りに駆け付けました。
グリーンランドの北端にあるアカデミー氷河群に、一日四十メートルをながれる韋駄天いだてん氷河があるけれど、これはおそらく、その速度の十倍以上であろう。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
横丁から呼びとめる女房などがあっても見向きもしない。ただもう韋駄天いだてんのように突っ走っていくので、あれでしょうばいになるのかとあきれるばかりである。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
韋駄天いだてんを叱する勢いよくまつはなけ付くれば旅立つ人見送る人人足にんそく船頭ののゝしる声々。車の音。端艇きしをはなるれば水棹みさおのしずく屋根板にはら/\と音する。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼奴きゃつ、稀代の韋駄天いだてん駿足しゅんそくでござるな、はははは、それはそうと、貴殿、落とし物はござらぬかの?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
急に威勢がよくなって、アコ長ととど助の二人、息杖を取りなおすとエッホ、エッホと息声をあわせながら韋駄天いだてん走り、下高井戸から調布、上田原とむさんに飛んで行く。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
田中は第一に船を降りて、韋駄天いだてんのように駈け出した。里村はそれにつづいた。
頭と足 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
と、言いのこした今一人、韋駄天いだてんばしりで駆け出すと、河岸で、かごを拾って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「いや、お若けえの、待って下せえやし。と、長兵衛をめるほどの事でもねえが、見すみす無駄と知りながら、汗をたらして韋駄天いだてんは気の毒だ。ここに一つの思案あり。まあ聞きたまえ。」
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
イカバッドは韋駄天いだてん走りのヘッセ人にさらわれてしまったのだと決めた。
韋駄天いだてんに走り去る小僧っ子には、おいつきようもなかった。左利きは全く子供にもかなわない。許生員は破れかぶれに鞭を抛ってしまうより外なかった。酔も手伝ってからだが無性に火照ほてり出した。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
おつと來たさの次郎左衞門、今の間とかけ出して韋駄天いだてんとはこれをや、あれ彼の飛びやうが可笑しいとて見送りし女子どもの笑ふも無理ならず、横ぶとりして背ひくゝ、つむりなりは才槌とて首みぢかく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お経の中には韋駄天いだてんが三界を駆け回って、仏の子の衣食をあつめて供養すると書いてあります。お釈迦しゃか様も托鉢たくはつなさいました。私も御覧のとおり行脚あんぎゃいたしています。でもきょうまで生きて来ました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
うまや武士一名、韋駄天いだてんのごとく追いかけて、途中から口輪を取ったが、伊勢に入るまで、とうとう供といってはこの侍一人だったという。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
配下のものに女装の京弥をさえぎらしておいて、ひたひた逃げのびようとしたので、何条権之兵衛の許すべき、韋駄天いだてんにそのあとを追っかけました。
駕籠だけを飛ばせ、仕出しはゆるゆる後から練って行こうという寸法、韋駄天いだてんのような粒選つぶよりの若い者に担がせた五挺の駕籠は、江戸の街の宵霜よいしもを踏んで
「例えにひくならもっと似合った者をひくがいいのさ、跛が韋駄天いだてんを褒める様なのはみっともないよ」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この時、一人の壮漢が、彼の今来た方角から韋駄天いだてんのように走って来るのがふと右衛門の眼に付いた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腕力自慢の衣水いすい韋駄天いだてん走り、遥か遅れて髯将軍、羅漢らかん将軍の未醒みせい子と前後を争っていたが、七、八町に駆けるうちに、衣水子ははや凹垂へこたれてヒョロヒョロばしり、四
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
虎松は暗闇の中をかきわけるようにして韋駄天いだてんばしりに駆けだした。三太もこれに続く……。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天いだてん、ここまで突破して来たメロスよ。真の勇者、メロスよ。
走れメロス (新字新仮名) / 太宰治(著)
この時一りょうの車はクレオパトラのいかりを乗せて韋駄天いだてんのごとく新橋からけて来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おつと来たさの次郎左衛門じろざゑもん、今の間とかけ出して韋駄天いだてんとはこれをや、あれあの飛びやうが可笑しいとて見送りし女子おなごどもの笑ふも無理ならず、横ぶとりして背ひくく、つむりなり才槌さいづちとて首みぢかく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つらつかると、目がくらんで、真暗三宝まっくらさんぽう韋駄天いだてんでさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
韋駄天いだてん
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けれど、彼はまだ依然として、持ちまえの才能をもって、敵国と甲州のあいだを、まるで韋駄天いだてんか天馬のように、のべつ往来していた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駕籠だけを飛ばせ、仕出しはゆるゆる後から練って行こうという寸法、韋駄天いだてんのような粒選つぶよりの若い者に担がせた五挺の駕籠は、江戸の街の宵霜よいしもを踏んで
駆け向かった先はいささか意外! 土手に沿って河岸かしを下へ小一町韋駄天いだてんをつづけていましたが、お舟宿垂水たるみ——と大きく掛けあんどんにしるされた一軒の二階めざしながら
千里韋駄天いだてん、万里の飛翔ひしょう、一瞬、あまりにもわが身にちかく、ひたと寄りそわれて仰天、不吉な程に大きな黒アゲハ、もしくは、なまあたたかき毛もの蝙蝠こうもり、つい鼻の先、ひらひら舞い狂い
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その玉子を四つずつ左右のたもとへ入れて、例の赤手拭あかてぬぐいかたへ乗せて、懐手ふところでをしながら、枡屋ますや楷子段はしごだんを登って山嵐の座敷ざしきの障子をあけると、おい有望有望と韋駄天いだてんのような顔は急に活気をていした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
裸体武兵衛と数馬とは草鞋わらじの紐を締め直し、数馬にとっては父の仇、武兵衛にとっては仕官の敵の坊主之助を討ち取ろうと朝陽を受けて煙り立つ恵那の高山を振り仰ぎ韋駄天いだてんのように走り出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しやく有餘いうよ猛狒ゴリラ苦鳴くめいをあげ、鮮血せんけついて地上ちじやうたをれた。わたくし少年せうねんとはゆめ夢見ゆめみ心地こゝち韋駄天いだてんごとそのかたはらはしつたとき水兵すいへい猛獸まうじうまたがつてとゞめの一刀いつたう海軍士官かいぐんしくわん悠然いうぜんとして此方こなたむかつた。
おつとたさの次郎左衞門じろざゑもんいまとかけして韋駄天いだてんとはこれをや、あれびやうが可笑をかしいとて見送みおくりし女子おなごどものわらふも無理むりならず、よこぶとりしてひくゝ、つむりなり才槌さいづちとてくびみぢかく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その足の早いことといったら、韋駄天いだてんのようだ。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おいみな、また韋駄天いだてんが飛んで来るぜ」
主計は忙しい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
燕作は、野武士のぶしの仲間から、韋駄天いだてんといわれているほど足早あしばやな男。をさげて、昌仙からうけた密書をふところへ深くねじおさめ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言い捨てると、疾風韋駄天いだてん。のどかなお公卿さまもちょこちょこと小またに韋駄天——。
葡萄大谷まではここから二里、硫黄ヶ滝までは尚遠い! しかも険しい山道ながら、韋駄天いだてん走りに駈けつけて、今宵こよいの中に手に入れねば、どのような邪魔がはいろうも知れぬ! 島君さらばじゃ!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やあ遅かったと思ううち、の制帽は馳け足の姿勢をとって根拠地の方へ韋駄天いだてんのごとく逃げて行く。主人はぬすっとうがおおいに成功したので、またもぬすっとうと高く叫びながら追いかけて行く。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ていれば相良金吾はなおもそれから走りに走りつづけ、小田原の宿へつづく根府川七里の街道をさながら韋駄天いだてんの姿で急いでおります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きくだに妖艶ようえん、その面影もさながらに彷彿ほうふつできるへび使いの美人行者、そもなんの目的をもって三人の小町娘をさらい去ったか、疑問はただその一点! 日は旱天かんてん、駕籠は韋駄天いだてん