霜柱しもばしら)” の例文
そのそばにえている青木あおきくろずんで、やはり霜柱しもばしらのためにいたんではだらりとれて、ちからなくしたいているのでありました。
小さな草と太陽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「上にもない——おや、變なことがあるぞ。畑をひどく荒してゐるが——。霜柱しもばしらをこんなにくだいて、土を掘つて何處かへ運んだ樣子だ」
「御めっちの知った事じゃねえ。黙っていろ。うるせえや」と云いながら突然後足あとあし霜柱しもばしらくずれた奴を吾輩の頭へばさりとびせ掛ける。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとしずかに石はなかから二つにわれて、やがて霜柱しもばしらがくずれるように、ぐさぐさといくつかに小さくわれていきました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
霜柱しもばしらのくずれる音さえきこえそうな気がした。次郎は、しかし、あたりが静かであればあるほど、気がいらだつのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
朝のうちは霜柱しもばしらが立つが、陽がのぼると相変らず春のようないい陽気。河岸ッぷちの空地の草の上に陽炎かげろうがゆらめく。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ふゆになると霜柱しもばしらつのでにはへはみんな藁屑わらくづだの蕎麥幹そばがらだのが一ぱいかれる。それが庭葢にはぶたである。霜柱しもばしらにはからさき桑畑くはばたけにぐらり/\とたふれつゝある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
翌朝よくちょう出入でいりとびの者や、大工の棟梁とうりょう、警察署からの出張員が来て、父が居間の縁側づたいに土足の跡を検査して行くと、丁度冬の最中もなか、庭一面の霜柱しもばしらを踏み砕いた足痕あしあと
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
何という図太さだ! 何という「働く者」の図太さだ‼ 黄色い朝暾あさひのなかに音をたてて崩れてゆく足許あしもと霜柱しもばしらをみつめながら、鷲尾は呆然ぼうぜんとたちすくんでしまった。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
かえるたちのもぐっている土の上に、びゅうびゅうと北風がふいたり、霜柱しもばしらが立ったりしました。
二ひきの蛙 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
小塚っ原は、霜柱しもばしらで真っ白だった。然し、空は暗く、夜はまだ、明けるにだいぶがあった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しろ/″\と霜柱しもばしらのやうにつめたくならんで、硝子火屋がらすほやは、がけ巖穴いはあなひとひとまどけた風情ふぜいえて、ばつたり、あかりえたあとを、とゞく、どれもこれも、もやんで、
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ところが、ある霜柱しもばしらのたったつめたい朝でした。
狼森と笊森、盗森 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
炭屋すみや小僧こぞうさんが、へいによりかかって、ぼんやりとひなたぼっこをしていました。よるあいだりた霜柱しもばしらが、ひかりをうけて、しだいにとけています。
日の当たる門 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから一直線いつちよくせんりて、丁度ちやうど自分じぶんつてゐる縁鼻えんばなつちが、霜柱しもばしらくだいたやうれてゐた。宗助そうすけおほきないぬでもうへからころがりちたのぢやなからうかとおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「水はないが、井戸の中に眞新らしい土がうんとあるぜ。——石も投り込んであるやうだ。あの土に霜柱しもばしらくだけたのが交つて、石に血が付いてゐると大變なことになるが——」
見れば、えりもとからびんに、霜柱しもばしらわったように、無数むすうはりゆびにさわった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘次かんじ霜柱しもばしらたつてる小徑こみちみなみつた。昨夜ゆうべおそかつたことやらなにやらはなしをしてひまどつた。庭先にはさきからつゞちひさな桑畑くはばたけむかふいへえるので、平生へいぜいそれを勘次かんじいへでもたゞみなみとのみいつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
にまし、あたたかになって、いままで、霜柱しもばしらしろく、かたむすんでいた、にわ黒土くろつちやわらかにほぐれて、したから、いろいろのくさしてきました。
さまざまな生い立ち (新字新仮名) / 小川未明(著)
帰りに例の茶園ちゃえんを通り抜けようと思って霜柱しもばしらけかかったのを踏みつけながら建仁寺けんにんじくずれから顔を出すとまた車屋の黒が枯菊の上にを山にして欠伸あくびをしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一箇所霜柱しもばしらの碎けたところを見ると、其處へ棒を立てかけて、左右前後から見廻して居りましたが、やがて木戸を押しあけて庭へ入ると、丁度奧の部屋の前あたりにピタリと立ち止りました。
さむい、さむ天気てんきなどは、あさからばんまで、その霜柱しもばしらけずに、ちょうど六ぽうせきのように、またしお結晶けっしょうしたように、うつくしくひかっていることがありました。
小さな草と太陽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あごのあたりに利刃りじんがひらめく時分にはごりごり、ごりごりと霜柱しもばしらを踏みつけるような怪しい声が出た。しかも本人は日本一の手腕を有する親方をもって自任している。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれど、はるになりますと、いつしか霜柱しもばしらたなくなりました。そして、一は、ふくれあがって、痛々いたいたしそうにえたつちまでが、しっとり湿しめっておちついていました。
小さな草と太陽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そとにはさむかぜいています。ほしがきらきらとれたはやしのいただきにかがやいて、あたりは一めんしろしもりていました。天使てんしるもいたいたしげに、素跣すはだし霜柱しもばしらんでいたのであります。
いいおじいさんの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)