霎時しばらく)” の例文
霎時しばらく聞かせたまへ。我今かりかたちをあらはしてかたるといへども、神にあらず仏にあらず、もと一〇五非情ひじやうの物なれば人と異なるこころあり。
先方むこうでも声に応じて駈けて来た。が、惨憺たる此場このば光景ありさまを見て、いずれも霎時しばらく呆気あっけに取られた。巡査は剣鞘けんざやを握って進み出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は裏口から𢌞つて霎時しばらくお利代と話した。そして、石炭酸臭い一封の手紙を渡された、それは智惠子が鉛筆の走り書。——恁う書いてあつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
薄い藤紫の覆布かさをかけた電燈の光が、柔く部屋の中に溢れている。霎時しばらくするとビアトレスが扉をあけて入ってきた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
語るものはわがこの夏霎時しばらくの仮の宿やどりとたのみし家の隣に住みし按摩あんま男なり。ありし事がらは、そがまうへなる禅寺の墓地にして、頃は去歳こぞの初秋とか言へり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
仕つりぬ只今たゞいま藥研やげんに掛ますあひだ霎時しばらくお待ち下されと云つゝ夫を和吉に遞與わたし製造せいざう方へ廻させしは多少をろんぜぬ商個あきうどの是ぞ實に招牌かんばんなるさて細末さいまつの出來る間と元益に四方八方よもやまの話しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それからは霎時しばらくとほざかつてたが、四十一ねんぐわつに、一人ひとり寺尾てらを子安こやす篠原しのはら大網おほあみたる駒岡こまをか諸遺跡しよゐせきぎて、末吉すゑよしかゝつてると、如何いかに、如何いかにである。
霎時しばらくにして海上を見渡せば、日はすでに没し、海波暗くして怒濤砂をき、遥か沖合には漁火いさりび二、三。我々はこのこうおわりてこの無限の太洋に面す。限りなき喜悦は胸にあふれて快たとえ難し。
自分は今、茲に霎時しばらく、五年前の昔に立返らねばならぬ。時は神無月末の或る朝まだき、處は矢張此の新山祠畔の伯母が家。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
塚田巡査は歯噛はがみをした。微傷かすりきずではあるが、の手首からは血が流れていた。の二三人も顔や手の傷を眺めながら、失望と疲労との為に霎時しばらく茫然ぼんやりと立っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なしてもとの如く風呂敷に押包せ丁稚でつち脊負せおはいさみすゝんで歸りけるが和吉は霎時しばらくかたへに在て二個ふたりが話しを熟々つく/″\きゝ主個あるじの息子が昨日きのふこゝより歸りしわけも今日は又態々わざ/\こゝまで忠兵衞が來りてむさうちをもいとはず酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人は別々の事を考えながら、霎時しばらく黙って椅子にかけていた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
自分は今、茲に霎時しばらく、五年前ねんぜんの昔に立返らねばならぬ。時は神無月末の或る朝まだき、処は矢張此の新山祠畔の伯母が家。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
取替とりかえて貰おう。」と、霎時しばらくして重太郎は自分の枝を出した。お葉も自分の枝を出した。春待顔はるまちがおに紅い蕾を着けた椿の二枝ふたえだは、二人の手によって交換されたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ムヽ五兩と云ては吾儕おれの身では大金ながら後刻のちまでに急度きつと調達こしらへもつくるが然して金の入用と邪魔じやまの手段は如何いふわけか安心するため聞せてと云ば元益庄兵衞の耳のほとりへ口さし寄せ何事やらんやゝ霎時しばらく私語さゝやきしめすを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人は霎時しばらくの間、片唾かたずをのんで鸚鵡の言葉を聞いた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
松太郎は何がなしに生き甲斐がある樣な氣がして、深く深く、杉の樹脂やにの香る空氣を吸つた。が、霎時しばらく經つと眩い光に眼が疲れてか、氣が少し焦立つて來た。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
荒神様へまいるもよい。ついでにここを通ったらば、霎時しばらくこの海岸に立って、諸君が祖先の労苦をしのんでもらいたい。しかし電車で帰宅かえりを急ぐ諸君は、暗い海上などを振向いても見まい。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
松太郎は、何がなしに生甲斐がある様な気がして、深く深く、杉の樹脂やにの香る空気を吸つた。が、霎時しばらく経つとまぶしい光に眼が疲れてか、気が少し、焦立つて来た。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
必らずしも雨霰の如くに小歇おやなくバラバラ降るのではなく何処いずくよりとも知らず時々にバラリバラリと三個みつ四個よつ飛び落ちて霎時しばらくみ、また少しく時を経て思い出したようにバラリバラリと落ちる。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その縁側の邊から、富江の聲が霎時しばらく聞えてゐたが、何やら鋭く笑ひ捨てゝ、縁側傳ひに足音が此方へ來る。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
室内昼の如くにてらさせて四辺あたりくまなく穿索したがもとより何物を見出そう筈もなく、動悸どうきの波うつ胸を抱えて、私は霎時しばらく夢のように佇立たたずんでいたが、この夜中やちゅう馴染なじみも薄い番人を呼起よびおこすのも如何いかが
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信吾は霎時しばらく庭を眺めてゐたが、『まあ可いさ。休暇中に決めて了つたら可いでせう?』と言つて立上る。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
長野の眞赤にした大きい顏が、霎時しばらく渠の眼を去らないで、悠然として笑を續けさせて居た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『ハア。』と聞えぬ程低く云つたが、霎時しばらくして又、『二面の方ですか、三面の方ですか?』
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『怒ツたツて仕様が無い。』と、稍霎時しばらくしてから、忠志君が横向いて云ツた。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
渠は卓子テーブルに左の手をかけて、立つた儘霎時しばらく火の無い煖爐ストーブを見て居たが
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
渠は卓子に左の手をかけて、立つた儘霎時しばらく火の無い暖炉を見て居たが
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分の問に對して、三秒か五秒の間答がなかつたが、霎時しばらくして
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分の問に対して、三秒か五秒の間答がなかつたが、霎時しばらくして
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
信吾は霎時しばらく庭を眺めてゐたが
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)