菩提所ぼだいしょ)” の例文
この東嶺寺と云うのは松平家まつだいらけ菩提所ぼだいしょで、庚申山こうしんやまふもとにあって、私の宿とは一丁くらいしかへだたっていない、すこぶる幽邃ゆうすい梵刹ぼんせつです。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また同じ二十九日には、菩提所ぼだいしょ円同寺に石水和尚おしょうを訪ねて、自分の法名を乞い、見竜院徳翁収沢居士とつけられたということです。
今川義元の菩提所ぼだいしょに家康が幼時人質ひとじちに来ていたという因縁がからんでいる丈けに道具の品目がおびただしい。義元公自画自讃という掛物があった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
実は今日こんにちまで先祖の菩提所ぼだいしょなる下総しもうさ在所ざいしょに隠れておりましたが是非にも先生にお目にかかり、折入ってお願い致したい事が御座りまして
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その吉良家累代の菩提所ぼだいしょである華蔵寺の下にかかると、二人は笠をって、石段へ礼をした。一学には、わけて思い出の深い寺なのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お島はその一夜ひとよは、むかし自分の拭掃除ふきそうじなどをした浜屋の二階の一室に泊って、あくは、町のはずれにある菩提所ぼだいしょへ墓まいりに行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この人々の中にはそれぞれの家の菩提所ぼだいしょに葬られたのもあるが、また高麗門外こうらいもんがいの山中にある霊屋おたまやのそばに葬られたのもある。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
葬儀は遺言だそうで営まなかったが、緑雨の一番古い友達の野崎左文のざきさぶんと一番新らしい親友の馬場孤蝶との肝煎きもいりで、駒込こまごめ菩提所ぼだいしょで告別式を行った。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
江戸時代の権勢と金力と、審美眼とを後世に残したこの増上寺を、徳川家の菩提所ぼだいしょとして定めたのは家康であった。
増上寺物語 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
その跡の遺骸なきがらは文吉が引取りまして、別に寺もありませんから小岩井村の菩提所ぼだいしょへ葬むり、また山平は伯父と相談して兎も角もお繼を引取り、剣術を仕込み
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この寺は稲葉家の菩提所ぼだいしょで、築地の屋敷がなくなったから、ここへ持って行ったのでしたが、もうその時には喧嘩けんかなどはしないようになって二人仲よく並んでいました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのためにあの世の苦患くげんは大変、娘さんを可哀相に思うなら、日頃大事にしていた品物と、三百両の小判を棺桶へ入れて、菩提所ぼだいしょへ葬ってやんなさい——とこう言います
祖父は私の家と籍を別にしていて、菩提所ぼだいしょなども違っていた。他家に嫁いでいた叔母は祖父と祖母との間に生れた人で、この人は家にいたときは祖父の姓を名乗っていた。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
赤穂の元浅野家菩提所ぼだいしょ華岳寺の住職恵光えこう、同新浜正福寺の住職良雪、自家の菩提所周世すせ村の神護寺住職三人にてたもので、自分が江戸へ下ってからの一党の情況を報じて
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
姉は金鯱きんしゃちの見える土地に執着を持っている、拙者は阿蘇の煙の見えない土地は、生きる土地でないような気持がしています、熊本へ帰ると、そこに先祖の菩提所ぼだいしょがあります
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悪右衛門あくうえもんおどろいてかえると、それはおな河内国かわちのくに藤井寺ふじいでらというおてら和尚おしょうさんでした。そのおてら石川いしかわいえ代々だいだい菩提所ぼだいしょで、和尚おしょうさんとは平生へいぜいから大そう懇意こんい間柄あいだがらでした。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
やさしい京の御方おかたの涙を木曾きそに落さおとさせよう者を惜しい事には前歯一本欠けたとこから風がれて此春以来御文章おふみさまよむも下手になったと、菩提所ぼだいしょ和尚おしょう様にわれた程なれば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もとは小山氏おやまうじ菩提所ぼだいしょで、代々、徳の高いお坊さんが住職となってすんでおられました。
「目白坂下の寺は、おめえの屋敷の菩提所ぼだいしょかえ」と、吉五郎は猪口ちょこを差しながら訊いた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
光石氏の石の作としては、平尾賛平氏の谷中の菩提所ぼだいしょの石碑の製作があります。
ようやくの事で空しきから菩提所ぼだいしょへ送りて荼毘だび一片のけぶりと立上らせてしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
年頭の祝儀、菩提所ぼだいしょ参詣さんけい、一人も欠席あることなし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あとで思い当ったことだが、帰国するとすぐ菩提所ぼだいしょの大竜寺へ展墓をし、それから間をおいてしばしば寺を訪ねた。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし他家に仕えようという念もなく、商估しょうこわざをも好まぬので、家の菩提所ぼだいしょなる本所なかごう普賢寺ふけんじの一房に僦居しゅうきょし、日ごとにちまたでて謡を歌って銭をうた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
赤坂の菩提所ぼだいしょへ仏参の帰り途によい所へ来合せました。天下の御旗本ともあるべき者が町人どもを相手にして達引たてひきとか達入たていれとか、毎日々々の喧嘩沙汰はまこと見上げた心掛けじゃ。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はその日三沢家を代表して、築地の本願寺の境内けいだいとかにある菩提所ぼだいしょ参詣さんけいした。薄暗い本堂で長い読経どきょうがあった後、彼も列席者の一人として、一抹いちまつの香を白い位牌いはいの前にいた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供はうまれたが、婦人は死んでしまった所密通をしたかどと子を堕胎おろした廉が有るから、よんどころなく其の死骸を旅荷にこしらえ、女の在所へ持ってき、親達と相談の上で菩提所ぼだいしょほうむる積りだが
菩提所ぼだいしょが別々になっていると御参りをなさる方も定めて御不便でしょう。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「越前屋の菩提所ぼだいしょはどこだ?」
光辰の行列は午前三時に出門、湖北をまわって菩提所ぼだいしょの瑠璃光寺へ寄り、猟の時刻を待つために休息した。
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あれは菩提所ぼだいしょ松泉寺しょうせんじへ往きなすったのでございます。息子さんが生きていなさると、今年三十九になりなさるのだから、立派な男盛と云うものでございますのに」
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
故郷ぼうじがたく詫言わびごとをして帰ろうと江戸へ参って自分の屋敷へ来て見ると、改易と聞いて途方に暮れ、こゝと云う縁類えんるいも無いからうしたらよかろうと菩提所ぼだいしょへ行って聞くと、親父は突殺され
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
東陽寺は原田家の菩提所ぼだいしょであるが、その住職を招いて禅の講話をきいたり、薙刀なぎなたの稽古、断食、ずいぶんいろいろやってみたけれども、良人おっとを求める激しい情欲は
せがれの手紙にある宗教と云うのはクリスト教で、神と云うのはクリスト教の神である。そんな物は自分とは全く没交渉である。自分の家には昔から菩提所ぼだいしょさだまっている寺があった。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二十八日に三右衛門の遺骸いがいは、山本家の菩提所ぼだいしょ浅草堂前の遍立寺へんりゅうじに葬られた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
藩の菩提所ぼだいしょ、鶴尾山万祥寺に清法院という尼寺がある。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長十郎は心静かに支度をして、関を連れて菩提所ぼだいしょ東光院へ腹を切りに往った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
成善がこの頃母五百とともに浅草永住町ながすみちょう覚音寺かくおんじもうでたことがある。覚音寺は五百の里方山内氏の菩提所ぼだいしょである。帰途二人ふたり蔵前通くらまえどおりを歩いて桃太郎団子の店の前に来ると、五百の相識の女に邂逅かいこうした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)