すげ)” の例文
塔の沢へ行って見る山のすその雪、青木やすげ足立あだちなどとかつて遊んだことのある若かった日までも想い起させるような早川はやかわの音
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
揃いの盲縞めくらじまの着物、飛白かすり前掛まえかけこん脚絆手甲きゃはんてっこうすげかさという一様な扮装いでたちで、ただ前掛の紐とか、襦袢じゅばんえりというところに、めいめいの好み
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
着慣れませぬ新らしい笈摺を引掛ひきかけ、雪卸ゆきおろしのすげの笠には同行二人どうぎょうににんと書き、白の脚半に甲掛草鞋こうがけわらじという姿で、慣れた大工町を出立致しまする。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その上に、数年前、自分の居所もまだこっちから知らせぬ間に、母のおすげも死んだとある。柘植嘉兵衛の消息も知れない。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし荷物を背負う用途を兼ねるものは、必然材料に丈夫なものが選ばれてくる。かやすげがま、岩芝、くご、葡萄ぶどう胡桃くるみ、特に愛されるのはしなの皮。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すげがチョビチョビと生えた雪まじりの沼地で、骨ばかりになった雑木林と斜にかしいだ半つぶれの木骨小屋フレームハウスが霧の中からぼんやりとあらわれだしている。
南部の鼻曲り (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
茸は立衆たてしゅう、いずれも、見徳、嘯吹うそのふき上髭うわひげ、思い思いの面をかぶり、括袴くくりばかま脚絆きゃはん、腰帯、水衣みずぎぬに包まれ、揃って、笠を被る。塗笠、檜笠ひのきがさ、竹子笠、すげの笠。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ、山中を流れている水陰みずかげにながくなびくようにして群生しているすげという実際の光景、特に、「水陰」という語に心をかれて私はこの歌を選んだ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
関東じまあわせに、鮫鞘さめざや長脇差ながわきざしして、脚絆きゃはん草鞋わらじで、厳重な足ごしらえをした忠次は、すげのふき下しの笠をかぶって、先頭に立って、威勢よく歩いていた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ゆふすげの花も微甘でもあり、微気の愛すべきものがあつて宜いが、しかし要するに山人のかすけき野饌である。甘菊の大なるものは実に嬉しいものである。
菊 食物としての (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
裾べり野袴にすげの笠、柄袋をかけた細身の大小、あられ小紋の手甲に脚絆、——旅装いは尋常であった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
オロチョン人の手製に成った馴鹿トナカイなめしがわの鞄や、財布——それは太い色糸で不細工に稚拙に装飾してあった——白樺の皮鍋、アイヌの厚司あつし模様のついたすげの手提げ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
つら/\此住居すまゐを見るに、いしずえもすえず掘立ほりたてたるはしらぬきをば藤蔓ふぢづるにてくゝりつけ、すげをあみかけてかべとし小きまどあり、戸口は大木のかはの一まいなるをひらめてよこ木をわたし
今左に其一例としてすげ沼を挙げ、古絵図の如何なる程度まで信頼して差支なきやを知らんとす。
古図の信じ得可き程度 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「いや……実はその……あの時に折角の御厚情を、すげなく振切って参いったので、その御返報かと心得まして、存分に讐仇かたきを討たれて差上げた次第で御座ったが……ハハハ……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この世にはここの野ほど広い野はなく、ここでの遊びほど価値ある遊びはない。お前の天性にしたがって、とてもイギリス牧草にはなれない、すげ羊歯しだのごとく思いのままに生い茂れ。
心を冷たく打ちひしぎ、まるで枯れ尽したすげか、荒壁を思わす朽樹くちきの肌でも見るかのような、妙にうらさびれた——まったく見ていると、その暗い情感が、ひしと心にのしかかってくるのだった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
かすりの仕事着に足ごしらえ甲斐々々かいがいしく、すげ褄折笠つまおりがさと小荷物を引き背負うて、薬を売ってあるく娘どもは、あまりに眼の前のことだから批判もできないが、彼らの職業にも歴史は有るらしい。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すげの火はあしの火よりもなほ弱し
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
それにすげの笠を持ち
ひとつの道 (新字旧仮名) / 草野天平(著)
すげの小笠の
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
こんなことを言って、二人が英気凜々えいきりんりんとして過ぎ行く後ろ姿を見ると、二人ともに、黒のゴロウの羽織にすげの笠、いずれも丸に十の紋がついている。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すげは、声を励ましたが、子の冷然として、強い顔を見ると、すぐ気もくじけて、むしろその不機嫌を取做とりなし加減に
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すげさんの言草が好いじゃ有りませんか。『岸本君は時々人をびっくりさせる。——昔からあの男の癖です』とさ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
近ごろある人に聞く、福井より三里山越やまごえにて、杉谷という村は、山もて囲まれたる湿地にて、すげの産地なり。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足をわぬ様に何うか五足こしらえて呉れえとか、すげの笠を買うて来て、法達ほうたつに頼んで同行二人どうぎょうににんと書いて呉れえとか、それから白の脚半きゃはんも拵え笈摺おいずるも拵えたから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すげの中からは葦切よしきりの声! と、鉄砲の音がした。猟師が朝駈けをしたのだろう。夏沢岳、天狗岳、中山、丸山、茶臼山ちゃうすやま縞枯岳しまがれだけに横ヶ岳、東の空にそびえている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
然し右衛門は不幸の霜雪に圧虐されたままに消朽ちてしまう草やすげでは無かった。当時の大権威者だった藤原道長の妻の倫子ともこに仕えて、そしておおいに才名をせたのであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
伴って登場、小鬢こびんの所に傷痕のある浅黒い顔、少しやつれが見えるためいっそう凄みを見せている。関東縞の袷に脚絆草鞋で、鮫鞘の長脇差をはいすげの吹き下しの笠をかぶっている
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
金精峠の西に在るすげ沼は、丸沼および大尻沼と共に白根山の堰止湖かと疑われるが、これはまた殆ど針葉樹の純林に周囲を取り巻かれている為に、恐ろしく暗い感じのする山湖である。
尾瀬雑談 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「南吹き雪解ゆきげはふりて、射水がはながる水泡みなわの」(巻十八・四一〇六)、「射水いみづがは雪解はふりて、行く水のいやましにのみ、たづがなくなごえのすげの」(同・四一一六)の例もあり、なお
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そよぐすげの香をかがなければならぬ。
あられふる左の山はすげの寺 北枝ほくし
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
女はすげの笠をかぶって、女合羽を着て、手甲てっこう脚絆きゃはんをした、すっかり、旅の仕度の出来ているところ、兵馬とは十分しめし合わせた道づれのようであります。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
岸本は灰色な壁のところに立って、その光景をながめていた。その日は岸本の外に、足立あだちすげの二人も弔いにやって来ていた。三人とも亡くなった人の同窓の友だ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
盲縞めくらじまの山なしの脚半きゃはんに丁寧に刺した紺足袋、切緒きれお草鞋わらじを穿き、かたわらに振り分け荷を置き、すげ雪下ゆきおろしの三度笠を深くかぶり、煙草をパクリ/\呑んで居りますると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
左山中みち、右桂谷道、と道程標みちしるべの立った追分おいわけへ来ると、——その山中道の方から、脊のひょろひょろとした、あごとがった、せこけたじいさんの、すげの一もんじ笠を真直まっすぐに首に据えて
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丑蔵の女房のおすげらしい返辞である。やがて、がたぴし、内から戸をあけると
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知れ切つたると云はぬばかりに愛想もすげもなく要らぬとは、汝十兵衞よくも撥ねたの、此源太が仕た図の中に汝の知つた者のみ有らうや、汝等うぬらが工風の輪の外に源太が跳り出ずに有らうか
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と云う声はこだまに響きます、うしろ三峰堂みみねどうの中に雨止あまやみをしていた行脚あんぎゃ旅僧たびそう、今一人は供と見えてすげの深い三度笠さんどうがさに廻し合羽で、柄前つかまえへ皮を巻いて、鉄拵てつごしらえの胴金どうがねに手を掛け
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
折から白髪天窓しらがあたますげ小笠おがさ、腰の曲ったのが、蚊細かぼそい渋茶けた足に草鞋わらじ穿き、豊島茣蓙としまござをくるくると巻いてななめ背負しょい、竹の杖を両手に二本突いて、おとがいを突出して気ばかりさきへ立つ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
舎監から割当てられた部屋へは、捨吉よりすこしおくれて同級のすげが着いた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一方はもう五十を越えている老武士で、これは体つきも肉づきも、わかものをしのぐばかり頑健なのだ。すげの一文字笠に夕陽がつよく反射しているため、その紐下ひもしたの顔は、暗くてよく見えない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知れきったると云わぬばかりに愛想もすげもなく要らぬとは、汝十兵衛よくもねたの、この源太がした図の中に汝の知ったもののみあろうや、うぬらが工風の輪の外に源太がおどり出ずにあろうか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母のおすげは、茶盆をそこへ置いて、ふいごに向っている長男の真雄へ云った。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すげの深い三度笠をかぶりまして、半合羽はんがっぱ柄袋つかぶくろのかゝった大小をたいし、脚半甲きゃはんこうがけ草鞋穿わらじばきで、いかにも旅馴れて居りまする扮装いでたち行李こうりを肩にかけ急いで松倉町から、う細い横町へ曲りに掛ると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
多助はおえいをつれて参り、見物させて帰ってくると、其の跡から続いて内へ入って来た男は、胴金造りの長物ながものをさし、すげの三度笠を手に下げ、月代さかやきを生し、刷毛先はけさきちらばし、素足に草鞋を穿いて
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)