真先まっさき)” の例文
旧字:眞先
真先まっさきに来たのは白い革の旅行鞄トランクで、それがあちこちり剥けているところは、旅に出たのは今度が初めてではないぞといわんばかりだ。
あやしき神の御声おんこえじゃ、のりつけほうほう。(と言うままに、真先まっさきに、梟に乗憑のりうつられて、目の色あやしく、身ぶるいし、羽搏はばたきす。)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左大将は常に親友の病をいたんで見舞いを書き送っているのであるが、昇任の祝いを述べに真先まっさきに大臣家を訪問したのもこの人であった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大江山課長は真先まっさきに向うの汽艇へ飛び移った。つづいて部下もバラバラと飛び乗った。狭い汽艇だから、艇内は直ぐにのこくまなく探された。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのうちに髪の白い男が真先まっさきに立つて、ほかの三人がそのあとに附いて、この町内の角を曲つて行きましたが、やがてにわとりが鳴き始めました。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
お玉が逃げ出したと見た捕方が追いかけようとする、真先まっさきの男に飛びついたムクは、咽喉笛のどぶえをグサとくわえて、邪慳じゃけんに横に振る。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あけると、真先まっさきにひょいと飛び出して来るのは、「わざわい」の姿をしたユースタス・ブライトさんだったでしょうからねえ
真先まっさきに立ちたる未醒みせい君、立留たちどまって、一行を顧みた。見ればまさしく橋は陥落して、碧流へきりゅういわむ。一行相顧みて唖然あぜんたり。
そう云って一人を短艇へ残し、船長は真先まっさき梯子タラップを登って行った。——甲板へ一歩踏出ふみだしたとたんに、人々は思わず息詰るような光景を見た。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
真先まっさきにシュザンヌは父の寝ている客間につづいた小さな書斎へ走った。しかしそこへ入るか入らないうちに恐ろしい光景が、眼の前に現われた。
孔子の推挙で子路は魯国の内閣書記官長とも言うべき季氏の宰となる。孔子の内政改革案の実行者として真先まっさきに活動したことは言うまでもない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
仁「面目次第もありませんが、此方等こちとらは狼藉者でも出ると、真先まっさきに逃出し、悪くすると石へ蹴つまずいて膝アこわすたちでありますよ、恐入りますな」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「バッタた何ぞな」と真先まっさきの一人がいった。やに落ち付いていやがる。この学校じゃ校長ばかりじゃない、生徒まで曲りくねった言葉を使うんだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その中にも同僚の橋本訓導は、真先まっさき椅子いすから離れて駈け寄って来て、彼の肩に両手をかけながら声をうるませた。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かれ起上おきあがって声限こえかぎりにさけび、そうしてここより抜出ぬけいでて、ニキタを真先まっさきに、ハバトフ、会計かいけい代診だいしん鏖殺みなごろしにして、自分じぶんつづいて自殺じさつしてしまおうとおもうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
澤は、真先まっさきに逃げ出したのが済まない気持はしながら、ほとんど気力を失って、何もする事が出来なかった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
何かがいれば、ポパイが真先まっさきに気づくはずでした。こうなると、一匹の犬が何よりのたよりです。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それで、コーンは自分が来るのを見て、いないと言えと給仕に言いつけたのだと、彼は真先まっさきに考えた。そんな浅はかなやり方に、堪えられなかった。そして憤然と帰りかけた。
自分は真先まっさきに降参してしまって、後は若い元気な助手や学生の人たちに任してしまった。
雪を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
◯そして第二回戦の火蓋ひぶた真先まっさきに切ったものは、例にって長老のエリパズである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
真先まっさきかの留吉とめきち、中にお花さんが甲斐〻〻かいかいしく子をって、最後に彼ヤイコクがアツシを藤蔓ふじづるんだくつ穿き、マキリをいて、大股おおまたに歩いて来る。余は木蔭からまたたきもせず其行進マアチを眺めた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今でも彼は、毎朝営舎えいしゃで目をさますと、まず真先まっさき宮城きゅうじょう遥拝ようはいし、それから「未来の地下戦車長、岡部一郎」と、手習てならいをするのであった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
石垣の草には、ふきとうえていよう。特に桃の花を真先まっさきに挙げたのは、むかしこの一廓は桃の組といった組屋敷だった、と聞くからである。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瞬間、人たちは愕然としてたたずんだが、樫田刑事が真先まっさきに駈け出すと、はっと気づいてその後から、悲鳴の聞えた方へ、ばらばらと走っていった。
謎の頸飾事件 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして真先まっさきに源氏の所へ伺候した。長い旅をして来たせいで、色が黒くなりやつれた伊予の長官は見栄みえも何もなかった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
文治が先に立って江戸橋へ向って参りますと、真先まっさき紙幟かみのぼりを立て、続いて捨札すてふだを持ってまいりますのは、云わずと知れた大罪人をお仕置場へ送るのでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あの髯生えた黒い洋服ふく、泥棒だんべい。お前様方刑事かね」と、ここから真先まっさきに逃げているように見える髯将軍は泥棒と間違えられ、吾輩等は刑事と相成った次第。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
虹汀さらば詮方せんかたなしと、竹の杖を左手ゆんでに取り、空拳を舞はして真先まっさきかけし一人のやいばを奪ひ、続いてかゝる白刃を払ひ落し、群がり落つる毬棒いがぼう刺叉さすまた戞矢かっし/\と斬落して
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夕方の浜辺を散歩する人の数もめっきり少なくなって、甲子を真先まっさきに、少し遅れて乙子と養子がつづき、最後に澤が、前に行く三人の後姿に興味を持ちながら歩いて行った。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
あなたは、斎藤が思うつぼにはまって、紺オーバーの男に化けて、うちのまわりをうろつき出した時、真先まっさきにそれを見つけたでしょう。そして、あたしに知らせてくれたわね。
断崖 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
海棠かいだうの露をふるふや物狂ものぐるひ」と真先まっさきに書き付けて読んで見ると、別に面白くもないが、さりとて気味のわるい事もない。次に「花の影、女の影のおぼろかな」とやったが、これは季がかさなっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで真先まっさき取止とりやめになったのは、この原子関係の研究であった。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
𤢖は一匹でなかったが、は入口に立って格闘の模様を窺っていたらしい。で、今や真先まっさきの一匹がかかる始末となったので、少しくおくれが出たのかも知れぬ。いずれも奥へ引退ひきさがって、再び石を投げ初めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真先まっさきにこれを一つと思ったんです。もう堂の中に居るのですから、不躾ぶしつけ廚裡くりへ向って、おおきな声は出せません。本堂には祖師の壇があります。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、大悦おおよろこびでありました。工藤上等兵と来たら、生命を投げだすようなことは、真先まっさきに志願する兵でありまして……」
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「サルビヤ号は観音岬沖に碇泊ていはくしております。駆逐艦がこれを監視しております」そういう報告をきいて、龍介君はにっこり笑いながら、真先まっさきボートへ乗り移った。
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その女王の服装までも言うのはあまりにはしたないようではあるが、昔の小説にも女の着ている物のことは真先まっさきに語られるものであるから書いてもよいかと思う。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
真先まっさきに黄色い旗を捧げた道案内者が、二人か三人馬に乗って行くと、その後から二三匹ずつ、馬の背中に結び付けられた猿が合計二三十匹、乃至ないし、四五十匹ぐらい行くのです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「澤さんはひどいわ。私達をたすけようともしないで真先まっさきに逃げてしまうんですもの。」
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
有難ありがたし有難し、二里位なら一足飛びだと、くわしく道を聴き、急流に沿うて、あるいは水をわたり、あるいは岩角をえ、ようやく道らしい道に出たので、一行は勇気数倍し、髯将軍真先まっさきに軍歌などをうたい出し
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
案内者は車の真先まっさきに乗っていて、時どきに起立して説明する。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雪でつかねたようですが、いずれも演習行軍のよそおいして、真先まっさきなのはとうを取って、ぴたりと胸にあてている。それが長靴を高く踏んでずかりと入る。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何処どこの家のより立派だというのです。ところが、間もなく雷鳴らいめいが始まりましたが、雷は天地もくずれるような音をたてて真先まっさきにこの家に落ちました。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
源氏の目に真先まっさきに見えるものは西の対の姫君の寂しがっている面影であった。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
止まると同時に志免警部は、私に一挺のブローニングを渡しながら真先まっさきに飛び降りて、空色のペンキで塗った門の扉を両手で押したが門は締りがしてなかったと見えてギイと左右に開いた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今の二人の魂消たまぎりしに何事ならんと駈附けつ、真先まっさきなるは時次郎、「照子様、どうなさいました、幽霊が出ましたかね。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毛皮を頭からかぶった真先まっさきにとんできた人間が、銃の台尻だいじりで熊の尻ぺたをひっぱたいて、嬉しそうに叫んだ。その声は、丁坊をたいそうおどろかせた。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その名前だけでも軽蔑けいべつしてつけられている琴のようですが、宮中の御遊ぎょゆうの時に図書の役人に楽器の搬入を命ぜられるのにも、ほかの国は知りませんがここではまず大和やまと琴が真先まっさきに言われます。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
(嬉しげに袖にいだく。そのまま、真先まっさき階子はしごを上る。二三段、と振返りて、と鷹を雪の手に据うるや否や)虫が来た。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真先まっさきに入ったのは、クラブの事務長の大杉おおすぎだった。しかし内部からはウンともスンとも返事がなかった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)