てき)” の例文
……まア、あたじけない! みんんでしまうて、いてかうわたしためたゞてきをものこしておいてはくれぬ。……おまへくちびるはうぞ。
友人はこれを聞き、カッとしてわが胸中にきいずる同情の海に比ぶれば二千、三千の金はその一てきにだもあたいせずと絶叫ぜっきょうしたと聞いた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一つ一つのおさらから、すこしずつやさいのスープとパンをたべ、それから、一つ一つのおさかずきから、一てきずつブドウしゅをのみました。
小初のきつい眼からなみだが二三てき落ちた。貝原は身の置場所もなく恐縮きょうしゅくした。小初は涙を拭いた。そして今度はすこし優しい声音で云った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
凛々りんりんたる勇姿ゆうし、あたりをはらった。さしも、烏合うごう野武士のぶしたちも、このけなげさに、一てきなみだを、具足ぐそくにぬらさぬものはない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
永年ながねんしまっておいたあぶらは、もうこればかしになってしまった。もうすこしなが月日つきひがたったら、あぶらは、一てきもなくなってしまっただろう……。
びんの中の世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一グラムとは一もんめまうして三ゲレンとは三わりにして硝盃コツプに三十てきはんゲレンぢやが、見てういふ工合ぐあいにするのだ。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
試験管しけんかんをならべ、毒薬どくやくとかかれた茶色ちゃいろのびんをとりあげると、試験管の中に、たらたらと、三、四てきえきをたらしこんだ。
両肩を張って、うなじを垂れて、涙を止めるのに一生懸命になってはいたけれど、光った物が一てき膝の上に落ちた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
食器を洗う水が、すぐそばを、流しの口から流れ落ちる、ある時は滝のように、ある時は一てきてき。そして、彼のほうへひやりとした風を送ってくる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それでも猶旦やつぱりだまされぬときちひさなあなから熱湯ねつたうをぽつちりとしりそゝげばたこかならあわてゝ漁師れふしまへをどす。あつい一てきによつて容易よういたこだまされるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
平次はいきなり、涙一てきこぼさぬ娘のお秀に聲を掛けました。勝氣なお秀は、激情と悲歎を押し包んで、燒金のやうな猛烈な復讐心を眼に燃やし續けてゐるのです。
山巓さんてんてきみづる能はざるを以て、もちあぶりて之をくらふ、餅は今回の旅行りよこうに就てはじつに重宝なりき、此日や喜作なるものおくれていたり、「いわな」魚二十三尾をり来る、皆尺余なり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
巨男おおおとこは、みやこへのぼろうと思いました。途中とちゅうでどうかして、白鳥になみだを流させようとしました。頭をたたいたり、おしりをつねったりしたのです。けれど白鳥は、けっして一てきさえなみだを出しませんでした。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ところが、一てきなみだもありませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
硝盃コツプさきに水をれて、ポタリ/\とびんの口をけながらたらすのだが、中々なか/\素人しろうとにはさううま出来できない、二十てきと思つたやつが六十てきばかり出た。殿
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おッと、そいつは大安心おおあんしん、ここは空井戸からいどで一てきの水もないばかりか、横へぬけ道ができているからたしかに間道かんどうです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
てきからだについたら、んでしまうような殺虫剤さっちゅうざいで、あさからばんまで、ちょうのあといまわしたものだ。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
つち保有ほいうすべき水分すゐぶんがそれほど蒸發じようはつつくしてもわたあひだ西風にしかぜけつしてそらに一てきあめさへもよほさせぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さされるので大いに当惑とうわくした近頃師匠の晩酌の相手をして少しばかり手が上ったけれども余り行ける口でなかったしよそへ行っては師匠の許可がない限り一てきといえども飲むことを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
女王さまは、ぬいものをしながら、雪をながめておいでになりましたが、チクリとゆびをはりでおさしになりました。すると、雪のつもった中に、ポタポタポタと三てきがおちました。
相互に利益をことにするように聞こゆれども、そういうように意味を取ると、とかく性質があしざまになりて、表向きでは一てきの酒を飲まぬと言いながら、裏面ではこっそりとちびちび飲む。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
眼下がんか茫々ばう/\たる大湖ありと、衆忽ち拍手はくしゆして帰途の方針ほうしんさだむるを得たるをよろこび、帰郷のちかきをしゆくす、すでに中して腹中ふくちうしきりに飢をうつたふ、されども一てきの水を得る能はず、いわんや飯をかしくにおいてをや
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ふたりはすぐほこらにあった石櫃へ、宝物をいれかえ一てきの水もしみこまぬようにして、岸にあった丸木のくりぬき舟にそれをのせて、忍剣がひとりで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのさかずきてんいてささげられてある。ほし夜々よるよるにそのやまみねとおるときに、一てきつゆとしてゆく。そのつゆが千ねん万年まんねんと、そのさかずきなかにたたえられている。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれ彼等かれら伴侶なかまつては、幾度いくたびかいひふらされてごとみづおとした菜種油なたねあぶらの一てきである。みづうごときあぶらしたがつてうごかねばらぬ。みづかたむときあぶらまたかたむかねばらぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
仏壇ぶつだんに、ささげられたさかずきのさけは、ほんとうに一てきげんじはしなかったのです。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)