山車だし)” の例文
「この山車だしが皆徳川時代のものばかりです。近郷近在から雲霞くもかすみと人が出てその盛んなこと京都の祇園祭をければ恐らく日本一です」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
村の少年少女こどもたちは造りかけた山車だしや花笠や造花つくりばなをお宮の拝殿にしまへ込んで、ゾロゾロと石の階段を野原の方へと降りて行くのでした。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
そろいの着物なども出来あがり、壁には花笠や山車だしの花がかかって、祭りの近づいているけしきはどの家を眺めてもあらわであった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
かれは、この山車だしうえの、かおあかくした、ひとのよさそうなおじいさんをているうちに、自分じぶんのお祖父じいさんのことなどをおもいました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その日はいろいろな山車だしやただ飲み台などが沢山に出てて見世物師や渡り音楽師が山ほど集って来たって、これで充分だという事はない。
神樂囃子かぐらばやし踊屋臺をどりやたい町々まち/\山車だしかざり、つくりもの、人形にんぎやう、いけばな造花ざうくわは、さくら牡丹ぼたんふぢ、つゝじ。いけばなは、あやめ、姫百合ひめゆり青楓あをかへで
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
止まったきりになっている電車の屋根の上はいっぱいの人でそこからも盛んにコンフェッチを投げる。楽隊のあとから奇妙な山車だしが来る。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
多くの東京市民は御酒頂戴ごしゅちょうだいということに活気づき、山車だしまで引き出して新しい都の前途を祝福したと言い、おりもおりとて三
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、遅れたのはその一隊ばかりでなく、所々で踊りを見せながら山車だしを引つ張つて来る組も、他にも大分遅れる組があつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
そして、昇り龍は、両肢に、右に菊、左に百合の花束を、掴んでいる。十二区の山車だしといっても、実際は、玉井組の山笠といってもよかった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
おそらく郷土的な香りのする鞍では世界でも一、二を争うものではないでしょうか。この烏山はお祭りに見事な山車だしを引くので有名であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
というのは、全身を指揮棒に代えて群衆の呼吸を合わせているのである。京都の祇園祭ぎおんまつりのほこ山車だしの引き方はそのかすかな遺習であるかもしれない。
(新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
足の踏所ふみど覚束無おぼつかなげに酔ひて、帽は落ちなんばかりに打傾うちかたむき、ハンカチイフにつつみたる折を左にげて、山車だし人形のやうに揺々ゆらゆらと立てるは貫一なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
氏子中の町々を興奮の坩堝るつぼにし、名物の十一本の山車だしが、人波を掻きわけて、警固の金棒の音、木遣きやりの声、金屏風の反映する中をねり歩いたのです。
山車だし、花火、三島の花火は昔から伝統のあるものらしく、水花火というものもあって、それは大社の池の真中で仕掛花火を行い、その花火が池面に映り
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところで当日の山車だし、屋台の中のおもだったものを点検すると、まず第一に四谷伝馬町は牛若と弁慶に烏万燈からすまんどうの引き物、麹町こうじまち十一丁目は例のごとく笠鉾かさほこ
山車だしの鼻先のせまいところで、人形の三番叟さんばそうが踊りはじめる頃は、すこし、お宮の境内けいだいの人もすくなくなったようでした。花火や、ゴム風船の音もへったようでした。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
あの日はまた穀倉の暗い二階の隅に幕を張り薄青い幻燈の雪をうつしては、長持のなかにしまつてある祭の山車だしの、金の薄い垂尾たりををいくつとなく下げた、鳳凰のはね
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
うねうねとつづく山車だしの列は、笛、太鼓の囃子はやしに調子を揃えて山門から霊屋の前まで、炬火たいまつの光りを先登に、あとからあとからと、夜あけがたまでつづいていた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
昔からの習慣によるとその立春の前日には、同種類の商買をしている者が山車だしをこしらえ、笛をふきつづみをならして、郡の役所へいった。それを演春えんしゅんというのであった。
偸桃 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
赤坂の氷川ひかわさまもお神輿みこしが渡っただけで、山車だしも踊り屋台も見合せ、わたくしの近所の天王さまは二十日過ぎになってお祭りをいたしましたが、そういう訳ですから
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
町内からそれぞれ自慢の山車だしをくり出し、街はあげて、文字通りお祭騒ぎだ。お祭を当てこんでのテキヤがいろいろはいってきた。いわゆるビタバに乗りこんできた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
と双方、はらの中でうめきながら、ハッとした瞬間の驚きを持続して、彼の道者笠とこちらの編笠、そのまま、両岸の岩上に山車だし人形の如く立ちすくみとなったのみです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
色白の首筋に紺の腹がけ、さりとは見なれぬ扮粧いでたちとおもふに、しごいて締めし帯の水浅黄みづあさぎも、見よや縮緬ちりめん上染じようぞめゑりの印のあがりも際立きわだちて、うしろ鉢巻きに山車だしの花一
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山車だしの出る日には、両先生は前夜より泊り込んでゐて、斥候ものみを派してしらせを待つた。距離が尚遠く、大鼓の響が未だ聞えぬに、斥候は帰つて、只今山車が出ましたと報ずる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
当日、富士山を飾った大きな山車だしを作り、その山車の上に、私がお振袖を着てのりまして、「君が代」とアメリカの国歌をうたって、ワシントンの都大路を練りまわりました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
長浜の土地は山車だしの名所だから、それを知っているものは、これも山車の人形の一つで、相当の名工が腕をふるったものであろうとの想像はつくけれど、山車の人形というものは
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
美しい美しい山車だしが出ます。これを見物に沢山な人がみちの両側にかきをつくつてをります。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
大江戸の豪華を誇った祭礼の山車だしも、明治の中期を最後として全く見られなくなった。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
塑像そぞうの材料だとか、石膏の塊だとか、額縁のこわれたの、脚のとれた椅子、テーブルなどが、隅々に転がっている中に、非常に大きな、まるでお祭りの山車だしみたいな感じのものが
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当年は不景気でもあり、国家多事の際でもあるので、山車だし屋台やたいもできなかったが、それでも近在から人が出て、紅い半襟や浅黄あさぎの袖口やメリンスの帯などがぞろぞろと町を通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
山車だし引くと花笠つけし玉垂のくわ少女の頬忘らえね」という香取秀真かとりほずま氏の歌は、山車を引く花笠であり、くわし少女の丹の頬であるから、更に美しいけれども、朱拙の句も祭の句だけに
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
……何が美しいと云ったところで江戸の祭礼まつりかなうものはまず他にはありませんな。揃いの衣裳。山車だし屋台。芸妓げいしゃ手古舞てこまい。笛太鼓。ワイショワイショワイショワイショとたる天神をかつぎ廻ります。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
町内で催し物があり、山車だしが出る。年によっては、御輿みこしが渡御する。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
赤い 山車だしには 赤い児がついて
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
御輿みこしとお前後ぜんごに、いろいろなかざものとおりました。そのうちに、この土地とちわか芸妓連げいぎれんかれて、山車だしとおりました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
花笠を造つたり、小さな山車だしこしらへたり、山車の屋根を飾る挿花さしばなを考へたりして、キヤツキヤツと騒いで居るのでした。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
河原町では、山車だしや仮装行列のほかに、夜に入つては提灯行列が出たし、町の上手にある神社の境内では奉祝の花競馬も行はれ、射撃大会まであつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
総江戸八十八カ町の山車だし引き物、屋台を従えながら、しずしずと、いや初かつおのごとく威勢よく竹橋ご門外に向かって、お矢倉さきにさしかかってまいりました。
先づ、寺詣りの子供の巾着でなきや、山車だしの飾り、見世物や諸藝人——それも安藝人の肩衣か何んかだ
それからいろいろ広告の山車だしがたくさん来て、最後にまた騎兵が警護していました。行列はこれからリボリの大通りシャンゼリゼーのほうへ押し出すのだそうです。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昼は百余の山車だしの行進、花合戦。夜はオペラの異装舞踏会ヴェグリオーヌ市立遊楽会カジノ・ミュニシバル仮装会ルドウト。それでも足らずにマッセナの大広場を公開して、踊ろうと跳ねようと勝手にまかす。
牡丹屋の亭主の話によると、神輿みこしはもとより、山車だし手古舞てこまい蜘蛛くも拍子舞ひょうしまいなどいう手踊りの舞台まで張り出して、できるだけ盛んにその祭礼を迎えようとしている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
津軽に限らず東北各地にこれと似たる風俗あり。東北の夏祭りの山車だしと思はば大過なからん歟。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
色白いろじろ首筋くびすぢこんはらがけ、さりとはなれぬ扮粧いでだちとおもふに、しごいてめしおび水淺黄みづあさぎも、よや縮緬ちりめん上染じやうぞめえりしるしのあがりも際立きわだちて、うしろ鉢卷はちまきに山車だしはな
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この六尺等身ととなうる木像はよく出来ている。山車だしや、芝居で見るのとはわけが違う。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むりやりに馬へきのせられて、それを取捲く群集が、山車だしの人形のように守り立てて、山の上まで持って行こうという勢いですから、小坊主は騎虎の勢いで下りるにも下りられず
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
花川戸から山車だしが出て付近一帯が祭り騒ぎ、渡り初めは酒屋の倉島の三夫婦、それが済んで一時に群衆の殺到、大混乱となって多数の怪我人、あとには橋のたもとへ下駄の山を積んだ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
毎年村の祭の夜ひと晩ずつ山車だしの夜番をしにいったものでした。
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
と、この山車だしをひく区内の子供たちも、大よろこびである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)