鴫沢しぎさわ)” の例文
旧字:鴫澤
彼が鴫沢しぎさわの家に在りける日宮を恋ひて、その優き声と、やはらかき手と、温き心とを得たりし彼の満足は、何等のたのしみをも以外に求むる事を忘れしめき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
前掲ぜんけいの萩の茶屋に住んでいる老婦人というのは鴫沢しぎさわてるといい生田いくた流の勾当こうとうで晩年の春琴と温井検校に親しく仕えた人であるがこの勾当の話を聞くに
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
婆は鴫沢しぎさわの前にその趣を述べて、投棄てられし名刺を返さんとすれば、手を後様うしろさまつかねたるままに受取らで、ひておもてやはらぐるも苦しげに見えぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
鴫沢しぎさわてる女その他二三の人の話によるとぞくはあらかじめ台所にしのんで火を起し湯をかした後
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
生家さとなる鴫沢しぎさわにては薄々知らざるにもあらざりしかど、さる由無よしなき事を告ぐるが如きおろかなる親にもあらねば、宮のこれを知るべき便たよりは絶れたりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
鴫沢しぎさわてる女はいう、お弟子さんはほんに少うござりましたが中にはお師匠さんのご器量が目あてで習いに来られるお人もござりました、素人衆は大概そんなのが多かったようでござりますと。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)