鯱張しゃちほこば)” の例文
あとに続く伊吹大作の気づかれは大変。なにしろ八方に目をくばって、ひとりで鯱張しゃちほこばってお供をするんだから——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたくしの中に鯱張しゃちほこばっていた夫人に対する敵対感情もいつか忘れて、わたくしはわたくしの傍にいて呉れるたゞ確かりしてすべっこい大理石の柱のようなものを感じました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
明は戸口に立ったまま、そんな彼女の目つきに狼狽うろたえたような様子で、鯱張しゃちほこばったお辞儀をした。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
微妙な明るさに部屋中をたした頃から、雛妓は何となく夢幻の浸蝕を感じたらしく、態度にもだんだん鯱張しゃちほこばった意識を抜いて来て、持って生れた女の便りなさを現して来た。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「さあ、それは見て来なかったなあ。だけど、こんな旅だから、何時になったって構いません。」明はそう云いながら、はいって来たときと同様に、鯱張しゃちほこばってお辞儀をした。「どうぞお大事に……」
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
父は「うむ」と返事をしましたが、顔には脅えだけ除かれて、たゞ張り拡がったまゝ縮まない無気味に鯱張しゃちほこばった表情だけ残されて、そのまゝこっちを向いています。しまはもう一度声をかけました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)