駈引かけひ)” の例文
悪罵あくば奔走ほんそう駈引かけひきは、そののち永く、ごたついて尾を引き、人の心を、生涯とりかえしつかぬ程に歪曲わいきょくさせてしまうものであります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大挙して突進すると鬼が誰をつかまえようかと狼狽あわてる、それが附目つけめなのである。下駄が一ツ二ツ残ると、それからが駈引かけひきで面白く興じるのだ。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
はたしてどんな駈引かけひきのもとに、目まぐるしい三つどもえの戦法がおこなわれるか、風雲の急なるほど、裾野のなりゆきは、いよいよ予測よそくすべからざるものとなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ボロ服の乞食姿で、子供を二人も連れている色魔もないものですが、しかし、かすかに私には心理の駈引かけひきがあったのです。
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
つまりね、教育というものは、そんな、お父さんの考えているような、心の駈引かけひきだけのものじゃないという事が、ぼんやりわかって来たのです。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そうとも、そうとも。功利性のごまかしで、うまく行く筈はないんだ。おとなの駈引かけひきは、もうたくさんだ。」
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あの人たちのする事は、一から十まで心理の駈引かけひき、巧妙卑劣の詐欺さぎなのだから、いやになる。僕は、ゆうべ、やっとわかって、判ったら、ぎょっとした。あの人たちは、おそろしい。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
どうも私は駈引かけひきという事がきらいで、いや、駈引きしたいと思っても、めんどうくさくて、とても出来ないたちですので、ちょっと気まずくても、ありのままを言う事にしているのです。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
ハムレットさまひとりが、計略だの曲者だの、駈引かけひきだのとおっしゃって、いかにも周囲に、悪い人ばかりうようよいるような事をおっしゃって、たいへん緊張して居られますが、滑稽こっけいだわ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はあなたを、少しの駈引かけひきも無く、厳粛に根強く、尊敬しているつもりでありますけれども、それでも、先生、とお呼びする事にいては、たいへんこだわりを感じます。他意はございません。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)