陳套ちんとう)” の例文
一、趣向はなるべく斬新なるを要すれども、時にはこれらの陳套ちんとうを翻案して腐を新となし死を活となすの技倆ぎりょうあるを要す。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
明白な陳套ちんとうな語で言い現わされるような感情の動揺を感じることはないであろうが、真なるものを把握はあくすることの喜びには、別に変わりはないであろう。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
前略、古来小区域に跼蹐きょくせきして陳套ちんとうを脱するあたわざりし桜花がいかに新鮮の空気に触れて絢爛けんらんの美を現したるかは連日掲載の短歌を見し人の熟知するところなるべし。
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こういう心持をあまり誇張しすぎると陳套ちんとうな思想に堕するのでありますが、ただ単に事実を叙しただけに止めてあるところに淡白な趣味が保たれているのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
平凡陳套ちんとうな事実をいかに修辞法の精鋭を尽くして書いてみても、それが少なくもちゃんとした科学者の読者に「おもしろい」というはずがないのである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
写生にのみ依らんか、絵画はついに微妙の趣味を現す能はざらん、実験にのみ依らんか、尋常一様の経歴ある作者の文学は到底陳套ちんとうを脱する能はざるべし。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
およそ有りふれた陳套ちんとうな題材と取り扱い方をした小説の「創作」と、他方では、最独創的な自然観人生観を盛った随筆の「中間物」とを対比させて見れば
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
写生にのみ依らんか、絵画はついに微妙の趣味を現わす能わざらん、実験にのみ依らんか、尋常一様の経歴ある作者の文学は到底陳套ちんとうを脱する能わざるべし。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
無音映画としてはあまりに陳套ちんとうな趣向であるが、しかしあの機関車の音と画像と
その歌、『古今』『新古今』の陳套ちんとうちず真淵まぶち景樹かげき窠臼かきゅうに陥らず、『万葉』を学んで『万葉』を脱し、鎖事さじ俗事を捕えきたりて縦横に馳駆ちくするところ、かえって高雅蒼老そうろうの俗気を帯びず。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
月並みな陳套ちんとうな正札付きの真実よりも、うそから出た誠にかえってより多くのより深き真実を見いだすこともありうるという意味で、こうした言葉を使っているのではないかと想像される。
映画雑感(Ⅶ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)