遣手婆やりてばば)” の例文
遊廓にむかし遣手婆やりてばばというものがあった。まさにそんな呼吸をよくのみこんでいる閻婆えんばのしぐさ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
医者とも見える眼鏡の紳士が一人。汚れた襟付えりつきあわせ半纏はんてんを重ねた遣手婆やりてばばのようなのが一人——いずれにしても赤坂あかさか麹町こうじまちあたりの電車には、あまり見掛けない人物である。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
又は茶色に変色した虐待致死の瘢痕はんこんといしの粉でおおうて、皮膚の皺や、繃帯のあとを押し伸ばし押し伸ばしお白粉しろいを施して行く手際なぞは、実に驚くべきもので、多分遊廓の遣手婆やりてばば
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
本家から正明に附属してきた老女が、(これは、言いようない愚昧な女だったが)初心な娼婦をなやす遣手婆やりてばばのように、心得顔に万事をとりしきって、分家のなにびとにも有無をいわせなかった。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)