ひだ)” の例文
それから二十分ほどしてから選炭場裏の六十度を描く赤土の絶壁の上に来ると、その絶壁のひだの間のくらがりを、猿のように身軽に辷り降りた。
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だのにあの無生物は永遠の理想をげたとでもいうように、白い雪のひださえ折目正しく取り澄し切っている。彼女はあれで満足なのか、寂しくはないのか。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼等は最高の階級を代表し、数年前までは二本の刀をおびることを許されていた。その短い方は、腰をめぐる紐の内側のひだに、長い方は外側の褶にさし込まれるのであった。
鋭い氷のひだ獅噛しがみついているのが、手を延せば届くくらいに見えるけれど、ここから、日帰りは無論、尾根づたいにも行けないので、矢張やはり朝は一時に起きて、今朝の通り
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
ただしこのころまでは大脳の表面は全く平滑で少しも凸凹のひだがないが、これからおいおい大脳の皮質部が比較的速かに発達して、そのため表面に凸凹が生じ、六ヵ月を過ぎ七ヵ月ともなれば
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
それは縮緬みたいな柔かいものを着た時の、ひだの線の具合などよくそうして見るのです。そんな場合、自分でやると彼方も此方も双方とも硬くならずに、たいへん自由な心持でよろしいと思います。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
すると音もなく飛びすさるものがあって、数歩の前に富士が、くっきり、雪のひだの目を現わしてそびえ立った。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうして炭車トロッコの左右に迫っている岩壁のひだを、走馬燈まわりどうろのようにユラユラと照しあらわしつつ、厳そかに廻転して来るのであったが、やがてその火の車の行列が
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どっちも緑のひだ樺色かばいろに光る同じ色の着物を着ていたジュジュとエレンは、むす子の左右にすわった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)