はさみ)” の例文
そしてはさみの恐ろしく力強い形がそれに或る美しさを附与している。その力を表現するためには、うんと墨を重ねて濃くする必要があるらしい。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ニョッキリとそびえた二本のはさみは、案の定庭の隅の物置小屋に向っている。彼は先ずそこの梯子を取り出す積りであろう。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
アノ長い手の端にはさみを持ってそれを打ち振りつつ歩いている様は中々愛嬌がある。これが彼の有名な毒虫のサソリ〔蠍〕の縁者だと思うと何んとなく興味を覚える。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
蹲踞しゃがんでをみていると、飛んでゆく鳥の影が、まるでかますかなんかが泳いでいるように見える。水色をした小さいかにが、石崖いしがけの間を、はさみをふりながら登って来ている。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
一同傚いて、行く行くこれを捕う。大さ一寸乃至ないし二寸、身はえびにて、はさみだけが蟹也。この夜、渓畔に天幕を張り、これを煮て食う。旨しとは思わざるが、ともかくも余には初物也。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
また「やどかり——蟹の類。古名、カミナ。今転ジテ、ガウナ。海岸に生ズ、大サ寸ニ足ラズ、頭ハ蝦ニ似テ、はさみハ蟹ニ似タリ、腹ハ少シ長クシテ、蜘蛛ノ如ク、脚ニ爪アリ、空ナル螺ノ殻ヲ借リテ其中ニ縮ミ入ル、海辺ノ人ハ其肉ヲ食フ。俗ニオバケ。」
鏡地獄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
顕微鏡で拡大した毒蜘蛛の頭部の様な、醜怪きわまりなき顔があった。そして、その頭部から、平家蟹へいけがにはさみが二本、ニョッキリと、遙かの地平線へ伸びて、呼吸をする様に閉じたり開いたりしていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はさみが! 螯が!
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)