蝋塗ろうぬり)” の例文
黙って母家おもやの方を伏し拝むと、心静かに取上げたのは言うまでもなく短刀。蝋塗ろうぬりさやを払って、懐紙をキリキリと巻くと、紋服の肌をひろげて、左脇腹へ——。
涼やかな軟風なんぷうにさざなみを立てている不忍池畔しのばずちはんの池添い道を、鉄色無地の羽二重はぶたえの着流し姿に、たちばなの加賀紋をつけた黒い短か羽織茶色の帯に、蝋塗ろうぬり細身の大小の落し差し
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
禿かむろを呼んで、その客の脇差を取寄せると、間違いも無いこしらえ、目貫めぬきの竹に虎、柄頭つかがしらの同じ模様、蝋塗ろうぬりの鞘、糸の色に至るまで、朝夕自分が持たせて出した夫の腰の物である。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
先刻せんこくより御覧に入れた、此なるつるぎ、と哥太寛の云つたのが、——卓子テエブルの上に置いた、蝋塗ろうぬり鮫鞘巻さめざやまき縁頭ふちがしら目貫めぬきそろつて、金銀造りの脇差わきざしなんです——此の日本のつるぎ一所いっしょ
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
平次は死骸の傍にほうり出してある蝋塗ろうぬりさやを取って、一応調べました。
曲者の遺留品というのは、蝋塗ろうぬりの脇差のさやが一本だけ。
蝋塗ろうぬりの肌が水氣を含んで、妙に意味あり氣です。