虫螻むしけら)” の例文
何にも無い、畳の摺剥すりむけたのがじめじめと、蒸れ湿ったそのまだらが、陰と明るみに、黄色に鼠に、雑多の虫螻むしけらいて出た形に見える。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここにおいてか階級意識の盛んな時代に、武士から虫螻むしけらの如く扱われた百姓、町人らは、それをよいことにして彼らの上に威張り散らします。
およそ屋根と壁の形さえあれば——そして住むぬしさえいなければ——巣を作って、虫螻むしけらのごとく、けだもののごとく、生きていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虫螻むしけらと等しき下賤の者の生命いのちを以て、高貴の御命を延ばし参ゐらせむ事、決して不忠の道に非ず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
無数の虫螻むしけらが、或は暖く蟄し、或はそろそろと彼等の殻を脱ぎかけ、落積った枯葉の厚い層の奥には、青白いまぼろしのような彼等の子孫が、音もない揺籃ようらんの夢にまどろんでいるだろう。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
虫螻むしけらと思うているのじゃ。……呉々も、案じぬがよい。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼ぶと、油障子をあけて、虫螻むしけらのようにぞろぞろと
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『では、虫螻むしけらと云ったわけを聞かしてやろう』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)