蓼科たでしな)” の例文
わたりや繁殖の状態を調べるために、春は富士の裾野すその、夏は蓼科たでしなという工合に、年じゅう小鳥のあとばかり追っかけてあるいている。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
荒船山の右の肩から奥の方に、雪まだらの豪宕ごうとうの山岳が一つ、誰にも気づかれぬかに黙然と座している。これが、信州南佐久の蓼科たでしなだ。
わが童心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
これまで私が君に話したことで、君は浅間山脈と蓼科たでしな山脈との間に展開する大きな深い谷の光景ありさまほぼ想像することが出来たろうと思う。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あれが淺間、こちらが蓼科たでしな、その向うが八ヶ岳、此處からは見えないがこの方角に千曲川ちくまがはが流れてゐるのです。」
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
この旅にはほとんど一週間を費した。私達は蓼科たでしな、八つが岳の長い山脈について、あの周囲を大きく一廻りしたのだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
近くにある枯々な樹木の梢は、遠い蓼科たでしなの山々よりも高いところに見える。近所の家々の屋根の間からそれを眺めると丁度日は森の中に沈んで行くように見える。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
遠く蓼科たでしなの山つづきの見える窓のところへ行って、そこから信州南佐久みなみさくの奥のほうの高原地なぞを望むたびに、わたしはようやくのことで静かに勉強のできるいなかに
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蓼科たでしなの山つづきから遠い南佐久さくの奥の高原地がそこから望まれた。近くには士族地の一部の草屋根が見え、ところどころに柳の梢の薄く青みがかったのもある。遅い春がようやく山の上へ近づいて来た。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)