荷足舟にたりぶね)” の例文
舟は、荷足舟にたりぶねぐらいな、脚の浅い舟であったが、もう壊れかけていて、水あかにひたされているとみえ、危ないほどかしいでいる。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あちこちに、一二艘の荷足舟にたりぶねがもやっていた。けれども私は嘗て、その舟の動いてるのを見たこともなければ、舟の中に人影を認めたこともない。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それどころか、これこそ大犯罪のいとぐちと異常な興奮をさえ感じて、早速附近を漕いでいた荷足舟にたりぶねの船頭に命じ、その異様な生首舟を拾い上げさせた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
五人の人数にんずを要する上に、一度かいを揃えて漕出せば、疲れたからとて一人勝手にめる訳には行かないので、横着おうちゃく我儘わがまま連中れんじゅうは、ずっと気楽で旧式な荷足舟にたりぶねの方を選んだ。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)