腑抜ふぬけ)” の例文
と、教授は腑抜ふぬけのした顔でそれをもじやつてゐるうち、ふと仏様の笑顔が家主の因業爺いんごふぢいのやうに見え出した。
「だから先刻さっきから云ってるじゃありませんか。私が冷淡に見えるのは、全く私が腑抜ふぬけのせいだって」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此のうち恭太郎きょうたろうという弟子がございましたが、親方にも当人にも年の分らない、色気もなく喰い気一方の腑抜ふぬけな男でございます。金重は大人たいじんゆえおろかなものほど愛して居りました。
何がさて、急場の事なり、書物や古履ふるぐつ日本魂やまとだましひなどいふ、やくざな荷厄介な物は、みんな一纏めに下宿屋の押入に取残したまゝ逃げて来たので、みんな腑抜ふぬけのやうな顔をして溜息ばかりいてゐた。
妾ゃ本当に腑抜ふぬけなのよ。ことに近頃はたましい抜殻ぬけがらになっちまったんだから
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)