紋切形もんきりがた)” の例文
何事も語らないで彼の前にすわっている須永自身も、平生の紋切形もんきりがたを離れた怪しい一種の人物として彼の眼に映じた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしたち仲間の紋切形もんきりがたで、仕事をするとその場から、プイと百里や二百里は飛びますからね——お前さんも、たまには江戸へ息抜きにおいでなさいな。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりともに鬼になったとかいう紋切形もんきりがたの怪談を短く話して、奥の行燈の火を消しに行った。
百物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
妻君も、それではと古川医師に診察を頼みますと、どうも、これは容易でない。脚気とはいっても、非常にたちが悪い。気を附けねばならんという診断。医者の紋切形もんきりがたとは思われぬ。
それとてもたいてい紋切形もんきりがたの悽文句で、この寺は裕福だと聞いて来たのに、これんばかりの端金はしたがねでは承知ができねえ、もっと隠してあるだろう、有体ありていにいってしまわねえと為めにならねえ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さりとていつもいつも十八番じゅうはちばん紋切形もんきりがたを繰返せといふにはあらず。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
今取り出して来たという風に、出来合できあい以上のうまさがあるので、紋切形もんきりがたとは無論思わないけれども、幾代いくだいもかかって辞令の練習を積んだ巧みが、その底にひそんでいるとしか受取れなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)