粉炭こなずみ)” の例文
それに連れて半分粉炭こなずみに埋もれた福太郎の安全燈ラムプが、ポツリポツリと青い光りを放ちつつ、消えもやらずに揺らめいたのであった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分の店へ髪を結いに来たのでないことは甚五郎も初めから承知しているので、かれは粉炭こなずみを火鉢にすくい込んで、半七の前に押し出しながら話しかけた。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は粉炭こなずみを火鉢の中に敷いて、火をこっぽりと埋めて、やかんをかけておいた。二つある玉子を母にもむいてやる。母は音もさせないで玉子をのみこむように食べた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
多「へい、わし十年の間粉炭こなずみを拾い集め、明き俵へむやみに詰め込んで、拝借致しやしたおおきい明き納屋へ沢山えらく打積ぶッつんで有りやすから、あれで大概たいげえ宜かんべいと思って居りやす」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
瀬戸火鉢の粉炭こなずみ、色の出ないお茶、障子のツギりの冬風、なんとも侘しい。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まずかまどの下に粉炭こなずみをくべ、上に鉄の板をのせる。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「妹がおりましたが、一両日前にほかへやりました」と、栄之丞は火鉢に粉炭こなずみをつぎながら答えた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
粉炭こなずみを七文か九文の計り売りして、それで大きい身代しんだいを作りあげたのは事実で、現にその墓は浅草高原町の東陽寺内に存在したのであるが、詳細の伝記は判然はっきりしていないらしく
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)