あな)” の例文
病人はそのあなぼこを探り当てると、それを利用して石塀に這い登り、向こう側に生えている楡の枝につかまって、幹をつたわって静かに地上に降りた。
………他の獣のあなへ這い込む、蟻塚をやたらに荒らす、蝸牛かたつむりを殻ごと噛みくだく。……鼠に出逢えば組打ちをはじめる。蛇や仔鼠を見れば絞め殺さずにはいられない。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さいしょ、口腔くちに固形酒精アルコールをいれて、それに火をつけた。まもなく火が脳のほうへまわって眼球が燃えだした。ごうっと、二つのあながオレンジ色の火を吹きはじめた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そしてご自分の生活方くらしかたも下界の人間とは差別を立てられ家には住まずあなに住まわれた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
唇はきつく結ばれているし、眼の球はあなの中で気味悪くふるえている。
今度は比較的量は少なかつたが、それでも両手のあなをほとんどみたした。それでやつと病人は落着いたやうだつた。彼女は洗面台へ手を洗ひに立つた。水の音を聞くと村瀬はむつくりと半身をもたげた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)