瘟気いきれ)” の例文
芝生を蹈む足のまはりに、草の仄かな瘟気いきれがして、梅雨の晴れ間の風の肌ざはりが、佗しい感じを杉田に与へた。
草いきれ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
毎夜々々寝苦しいお島は、白い地面の瘟気いきれの夜露に吸取られる頃まで、外へ持出した縁台に涼んでいたが、近所の娘達や若いものも、時々そこに落会った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
嫩葉わかばえ出る木々のこずえや、草のよみがえる黒土から、むせぶような瘟気いきれを発散し、寒さにおびえがちの銀子も、何となし脊丈せたけが伸びるようなよろこびを感ずるのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
島田髷しまだまげ平打ひらうちをさして、こてこて白粉や紅を塗って、瘟気いきれのする人込みのなかを歩いているお庄のみだらなような顔が、明るいところへ出ると、はじらわしげにあからんだ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)