猪熊いのくま)” の例文
懸想した猪熊いのくまおじと懸想された猪熊のばばと、——太郎は、おのずから自分の顔に、一脈の微笑が浮かんで来るのを感じたのである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
乞食どもと滓湯酒かすゆざけを飲みわけたり、八条猪熊いのくまで辻君を漁ったり、あげくのはて、鉢叩きや歩き白拍子を邸へ連れこんで乱痴気騒ぎをやらかす。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ひと先ず、二条猪熊いのくまの文覚の宿所で旅疲れをいやした六代御前は、夜になると早速、母の所へ駆けつけた。
この両日に炎上の仏刹ぶっさつ邸宅は、革堂、百万遍、雲文寺をはじめ、浄菩提寺、仏心寺、窪の寺、水落の寺、安居院の花の坊、あるいは洞院とういん殿、冷泉れいぜい中納言、猪熊いのくま殿など、おびただしいことでございましたが
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
八条猪熊いのくまで、名和伯耆守ほうきのかみ長年が斬り死にしたのも、このころである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうとう、しまいには、猪熊いのくまのばばや同類の盗人が、ろうを破ってあの女を救い出すのを、見ないふりをして、通してやった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この両日に炎上の仏刹ぶっさつ邸宅は、革堂、百万遍、雲文寺をはじめ、浄菩提寺、仏心寺、窪の寺、水落の寺、安居院の花の坊、あるひは洞院とういん殿、冷泉れいぜい中納言、猪熊いのくま殿など、おびただしいことでございましたが
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
家の中から、たちまちけたたましい女の声が、猪熊いのくまおじの声に交じって、彼の耳を貫ぬいた。沙金しゃきんなら、捨ててはおけない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)