狂躁きょうそう)” の例文
狂躁きょうそう状態の内面描写——ことに正常な意識と病的な意識との並存状況の精緻せいちきわまる浮彫りにおいて、古典的価値を有するものとされている。
信念の根のない熱情を強いて振おうとする姿は狂躁きょうそうにしか見えなかった。彼のねがいと満足とは六月二日の一火をもってもう果されていたのである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
克彦はいて狂躁きょうそうを装った。そして軽快に、敏捷びんしょうに、緻密に立ちまわることに、意力を集中しようとした。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
洞窟の内の、此の不思議な宴は、ますます狂躁きょうそうに向い、変に殺気を帯びて来た。入口から風が吹き抜けると、歌声がまた新しく起った。卓子がぐらぐらゆれる。私は眼を開いた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
知性の井戸の底を覗いたのは、僕でもない太宰でもない佐竹でもない、君だ! 意外にも君であった。——ちぇっ! 僕はなぜこうべらべらしゃべってしまうのだろう。軽薄。狂躁きょうそう
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
「——誰か近所の癲狂院メゾン・ド・サンテから逃げ出した狂躁きょうそう性の気違いが」
どんな名案があるのか、老先生は、決してゆうべのように、狂躁きょうそうして、取り乱してはいなかった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後でも、何か、勝家の声高なののしりが聞えていた。——さわぐな、狼狽するな、と抑えるつもりでいう彼自身の声からして、狐塚本陣の、騒然たる狂躁きょうそうのひとつだったのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狂躁きょうそうと、草ぼこりの中に、もうすずいて、その日の競馬も、終わりを告げた。
それは蜀勢が退くとき、決して、性質の短慮な者や狂躁きょうそうな人物に追わせてはいけない。軽々しく追えば必ず彼の計に陥る。——このことを、朝廷の命として、付け加えておいてもらいたい
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帯刀は、光秀の狂躁きょうそうを眺めて
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)