爽々すがすが)” の例文
こやつが担がれて惨憺たる悲鳴をあげる態を想像すると、そこに居並ぶ誰を空想した時よりも好い気味な、腹の底からの爽々すがすがしさにあおられた。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
それは全く、何とも云えない爽々すがすがしい気分であって、二人は夢のように悦び合った。これならば、門をくぐる患者も殖えることであろうと思われた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
闘うこころの正しさ、爽々すがすがしさを、毅然として支える清浄さを、悦楽と云うならば、娯楽の根底にはかかるものが横たわらなければ、ほんとうの永遠の娯楽にはならない。
脱出と回帰 (新字新仮名) / 中井正一(著)
眼の覚めるような爽々すがすがしい緑の野良のらを、きのうの雨で黒くなって横ぎっている道を鞭で指しながら、セリファンは自分の傍に坐っている女の子に向ってぶっきら棒に訊ねた。
せめてもの爽々すがすがしさは、見るかぎりのところ、心ゆくまで清掃の届いていることであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば、自然と私の心も爽々すがすがしく、腕もまた、鳴るように思われたが、仏師の仕事は前申す通り全く疲弊していることとて、木彫りの仕事は一向にない。注文がさらにありません。
少女はあなたの『容赦みゆるし』の爽々すがすがしさにむしやぶりついたのでございますが
これだけの緒口いとぐちを考えつくと僕は、急に愉快になって寝台から飛び降りた。僕の頭は梅雨期を過ぎて初夏のが輝いたかのように爽々すがすがしくなった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
モスクワまでも見えるような高い高い望楼ぼうろうのついた宏壮こうそうな邸宅を構え、そこで毎晩、爽々すがすがしい外気を浴びながらお茶を飲んだり、何か愉快な問題について論じあう、それからまた
猿殿は、さもさも、爽々すがすがしたように、奥へ急いで通られた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夢想家・私は私の足に、爽々すがすがしさのつたふを覚え
チチコフはおそろしく潔癖で、時には気難かしいくらいの男であったから、朝などその臭いがプーンと爽々すがすがしい鼻を見舞うと、たちまち眉をしかめて、首を横に振り振り、こう言ったものである。