火炎ほのお)” の例文
枕許の畳を盗むように通る鼠の足音まで恐しくなって、首を持上げて見る度に、赤々と炉に燃上る楢の火炎ほのおは煤けた壁に映っておりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
グッと反対心敵対心の火炎ほのおを挙げるものである。ここまでは好くない顔はしていても、別に逆らうでもなく、聞流しに聞いていた定基も、ここに至って爆発した。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
弱いものいうたら、しみしんしゃくもさしゃらず……毛をむしる、腹を抜く、背をひらく……串刺くしざしじゃ、ししびしおじゃ。油で煮る、火炎ほのおで焼く、きながらなますにも刻むげなの、やあ、殿。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとより壊空えくうの理をたいして意欲の火炎ほのおを胸に揚げらるることもなく、涅槃ねはんの真をして執着しゅうじゃく彩色いろに心を染まさるることもなければ、堂塔をおこ伽藍がらんを立てんと望まれしにもあらざれど
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)