湛然たんぜん)” の例文
世上幾多の尊厳と威儀とはこの湛然たんぜんたる可能力の裏面に伏在している。動けばあらわれる。あらわるれば一か二か三か必ず始末がつく。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すべて意識の統一は変化の上に超越して湛然たんぜん不動でなければならぬ、而も変化はこれより起ってくるのである、即ち動いて動かざるものである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
寂心は出塵しゅつじんしてから僅に二三年だが、今は既に泥水全く分れて、湛然たんぜん清照、もとより浮世の膠も無ければ、仏の金箔きんぱく臭い飾り気も無くなっていて、ただ平等慈悲の三昧ざんまいに住していたのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
湛然たんぜんとして音なき秋の水に臨むが如く、瑩朗えいろうたるおもてを過ぐる森羅しんらの影の、繽紛ひんぷんとして去るあとは、太古の色なきさかいをまのあたりに現わす。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かしらまとう、糸に貫いた真珠の飾りが、湛然たんぜんたる水の底に明星程の光を放つ。黒き眼の黒き髪の女である。クララとは似ても似つかぬ。女はやがて歌い出す。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)