海松房みるぶさ)” の例文
三十分するかしないうちに、海松房みるぶさ模様の絵羽の羽織を着た葉子が、廊縁ろうべり籐椅子とういすにかけて、煙草たばこをふかしている彼のすぐ目の下の庭を通って、上がって来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
月の客と澄ましてながめている物見の松の、ちょうど、赤い旗が飛移った、と、今見る処に、五日頃の月が出て蒼白あおじろい中に、松の樹はお前、大蟹おおがに海松房みるぶさ引被ひっかずいて山へ這出はいでた形に
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又は折ふし海べに下り立つて、すなどらうと思ふ時も、海松房みるぶさほどなひげの垂れたおとがひをひたと砂につけて、ある程の水を一吸ひ吸へば、たひかつを尾鰭おびれをふるうて、ざはざはと口へ流れこんだ。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はかりなき千尋の底の海松房みるぶさひ行く末はわれのみぞ見ん
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)