気嚢きのう)” の例文
中錘が見えようとする迄手繰り上げた時、鯛は腹中にある気嚢きのうの膨脹に泛されて、突然三、四間先の水上へぽっかりと紅い美しい姿を現した。
葵原夫人の鯛釣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
一方、賊の風船は、第一のお台場を越したあたりで、遂に全く浮力を失い、ダブダブにしわのよった気嚢きのうを、巨大な章魚たこの死骸の様に、水面に浮べた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
気嚢きのうに穴がいていたのです。もっともその穴は、一月程前に一度修繕した事のある穴ですが——」
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
飛行船の気嚢きのうの数倍もある怪物は、その顔全体が横に真二つに裂けた程の偉大な口をパクパクさせながら、飛竜そのままに、背中にうず高くもり上った数ヶの突起物をユラユラ動かし
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
広告風船の不完全な気嚢きのうのことだから、その内にガスが漏れて、徐々に下降を始め、遂に地上に落下するにきまっている。ただそれが落下した時、賊を逃がさぬ手配さえして置けばよいのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)