ひさし)” の例文
寒さはいつの間にかすこしゆるんで、のろいひさしの点滴の音が、をちこちで鳴き出したふくろうの声の鳴き尻をたたいてゐる。雨ではない。もやだ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
明るくしろ初夏はつなつの日ざしが、茂り合ったみどり草の網をすかして、淡く美しく、庭のもに照り渡り、やわらかな光線は浅いひさしから部屋の中へも送って来ます。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
酒亭三河屋は弁才天べんざいてんを安置したしまの南岸にあった。維新以前には嶼の周囲に酒亭がひさしを接していたのであるが、維新の後ことごとく取払われてひとり三河屋のみが酒帘しゅれんを掲げることを許された。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)