椶櫚しゅろ)” の例文
しかしこれはつい昨今急激な軟化をして、着物の袖を長くし、袴の裾を長くし、天を指していた椶櫚しゅろのような髪の毛に香油を塗っていたのであった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夜中にふと眼がさめると台所の土間どまの井戸端で虫の声が恐ろしく高く響いているが、傍には母も父も居ない。戸の外で椶櫚しゅろの葉がかさかさと鳴っている。
追憶の冬夜 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
欵冬かんとうはふきに非ず」「槲か檞か」「はこねうつぎは箱根山に産せぬ」「蘇鉄は熱帯植物に非ず、椶櫚しゅろも亦然り」
殊更ことさらに春咲く花を多く栽培したという谷中の賜春園もその日(文政九年四月二十三日)には、大方の花は既に散尽して青葉ばかりとなり、がけ上から吹き来る風に椶櫚しゅろの実はゆらめき
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そういう繊細な景色に対して、一方にはどっしりした椶櫚しゅろの花を点じている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
黄金こがね穹窿まるてんじょうおほひたる、『キオスク』(四阿屋あずまや)の戸口に立寄れば、周囲に茂れる椶櫚しゅろの葉に、瓦斯燈ガスとうの光支へられたるが、濃き五色にて画きし、窓硝子をりてさしこみ
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)