枯骨ここつ)” の例文
晩年、岩殿山霊巌洞いわとのやまれいがんどう枯骨ここつを運んで、坐禅しながら死を待つあの寥々りょうりょうとした終焉しゅうえんの身辺も、この家庭から生んだものと僕は思う。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こゝに恨みある身の病を養へばとて、千年ちとせよはひ、もとより保つべくもあらず、やがて哀れは夢のたゞちに消えて知る人もなき枯骨ここつとなりはてなむず。
清見寺の鐘声 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
照子は腰元を召して、「門内に変死があるというね。どんな様子だかお前行って見ておくれ。」次第によらば、枯骨ここつを拾わん思召おぼしめし、慈善家は違ったものなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さうして見れば、時代が既に推移した今、恩讎おんしうふたつながら滅した今になつて、枯骨ここつ朝恩てうおんうるほつたとて、何の不可なることがあらうぞ。私はかう思つて同郷の先輩にはかり、当路の大官にうつたへた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
十幾年もの間この山牢に生きて、たださえ痩せ衰えていたかれは、血筆をもち初めてから一層枯骨ここつをむきだして、幽鬼のようになっていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)