枇杷葉湯びわようとう)” の例文
同じく昔の郷里の夏の情趣と結びついている思い出の売り声の中でも枇杷葉湯びわようとう売りのそれなどは、今ではもう忘れている人よりも知らぬ人が多いであろう。
物売りの声 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大小に羽織袴の侍も小紋の夏羽織の町人も本家枇杷葉湯びわようとうの荷箱また団扇うちわの荷をかつぐ物売の商人も、皆だいなる菅笠に顔をかくし吹風ふくかぜはげしくもその裾を打払はれいささか行悩める如き有様を見せたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
峠の上の国境に立つ一里塚いちりづかえのきを左右に見て、新茶屋から荒町あらまちへ出た。旅するものはそこにこんもりと茂った鎮守ちんじゅもりと、涼しい樹陰こかげに荷をおろして往来ゆききのものを待つ枇杷葉湯びわようとう売りなぞを見いだす。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その声が妙に涼しいようでもあり、また暑いようでもあった。しかしその枇杷葉湯びわようとうがいったいどんなものだか、味わったことはもちろん見たこともなかった。
物売りの声 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)