暗黒まっくら)” の例文
「私の前身は暗黒まっくらだった。ここへ来てようやく光りをみつけた。だがその光りは消えようとしている。そうしたら二倍の闇となろう」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
穴倉の中は暗黒まっくらであった。蝋燭の火がちらちらと動いてわずかに探り見られた。しかし底に降りると恐ろしい胸のむかつくような臭気が鼻をついた。
あの夜算哲は、破り捨てた方の一枚を下にして、二枚の遺言書を金庫の抽斗ひきだしに蔵めた——ところが、それ以前に犯人は、あらかじめその暗黒まっくらな底に乾板を敷いておいたのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
日も暮よ、夜も来よと自暴やけの気味であるが私もかなり疲れて居るから励ます言葉も出ない。只どうにかして例の丈なす草にうずもれた峻坂しゅんはんを下る間だけなりと、暗黒まっくらにしたくない。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
勿論もちろん室の内はあかりをつけず暗黒まっくらにしておく、其処そこず四人の内の一人が、次の人の名を呼んで、自分の手を、呼んだ人の膝へ置く、呼ばれた人は必ず、返事をして、また同じ方法で
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)