春泥しゅんでい)” の例文
わがいえ山の手のはづれにあり。三月春泥しゅんでい容易に乾かず。五月早くも蚊に襲はる。いち喇叭らっぱ入相いりあいの鐘の余韻を乱し往来の軍馬は門前の草をみ塀を蹴破る。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
主人は烏山からすやま××番地の佐川春泥しゅんでいという小説家です。わしは、そこに長年使われている谷口というものです。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「児玉少佐。花は咲いたが、今年だけは、春爛漫らんまんという辞句は当らんな。満目の春泥しゅんでいみな荒涼じゃ」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春泥しゅんでいに映りすぎたる小提灯こぢょうちん
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そのうちの一つの名では小説家でさえもあった。佐川春泥しゅんでいという犯罪小説家は、その世の常ならぬ奇怪な題材によって、二、三年まえから読み物界でひっぱりだこの流行児になっていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
怪奇を探り、犯罪を利用するゆすりを本業とする影男が、世の中の裏の裏を探検した体験により、佐川春泥しゅんでいという筆名で犯罪小説を発表し、大いに人気を得ていることはすでにしるした。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)