擬物まがいもの)” の例文
本物の市川海老蔵という役者は、市川総本家の大将で、芝居道の方では王様だ。こいつは擬物まがいもののエド蔵。諸君、だまされてはいけない
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうだよ。頭のものだよ。黄八丈に紋縮緬の着付じゃ、頭のものだって、擬物まがいものくしこうがいじゃあるまいじゃないか。わたしは、さっきあの女が菅笠を
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
擬物まがいものの大きな紫檀の食卓を挾んで、那須と古田が腕組をしている。すこし離れたところで、西貝は床の間を枕にしてまじまじと天井を眺めていた。妙に白らけたけしきだった。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
湯帰りと見えて、しま半纏はんてんの肩へ手拭てぬぐいを掛けたのだの、木綿物もめんもの角帯かくおびめて、わざとらしく平打ひらうちの羽織のひもの真中へ擬物まがいもの翡翠ひすいを通したのだのはむしろ上等の部であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
両国の大きな小屋で擬物まがいものの黒ん坊にされていた経験があるから、多数の見物には驚かないが、自分がお客となって芝居見物をするのは今日が初めてですから
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)