戦慄みぶるい)” の例文
旧字:戰慄
道理が戦慄みぶるいして逃げ出し、人情が呆れて顔をそむけるような、そんな奇怪な神の存在をわれ等は知らない。それは人間の迷信が造り上げた神で、実際には存在しない。
こう申しては勿体もったいないのですが、旦那様程の御人の好い御方ですらおさえて制えきれない嫉妬の為めには、さあ、男の本性を顕して——獣のような、戦慄みぶるいをなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あたりまえの言葉をあたりまえに言い出したに過ぎないが、女は戦慄みぶるいするほどに怖れたので
飛び道具に恐れての戦慄みぶるいか? それとも手弱女の類を絶した、この世ならぬ美に胸たれ恍惚から来た身の顫えか? 下段に構えた刀を引き入身正眼に付けたまま、いつまでもじっと動かない。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桜子の声は喉のうちに消えて、軽い戦慄みぶるいが、スーッと身体を走ります。
「察しておくれよ」と、吉里は戦慄みぶるいしながら火鉢の前に蹲踞しゃがんだ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
丁度、私がのがれて来た世界とは、ああいう眩暈めまい戦慄みぶるいとの出るような寂寞せきばくの世界だ。そこにあるものは降りつもる『生』の白雪だ。そこはまるで氷の世界だ。氷の海だ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
冷い、かすかな戦慄みぶるいは人知れず彼の身を伝うように流れた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)